研究課題/領域番号 |
15H06133
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井手上 敏也 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90757014)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | スピントロニクス / スピン軌道相互作用 / ラシュバ系 / 非相反電荷輸送現象 / スピン流 |
研究実績の概要 |
極性半導体BiTeBrにおいて、ラシュバ型スピン分裂バンドに起因する、非相反電荷輸送現象を発見した。具体的には、層状化合物であるBiTeBrをスコッチテープ法によって劈開・微細デバイス化し、単一極性ドメインと考えられる数マイクロメートル程度の大きさの試料における電気抵抗・ホール効果を測定すると同時に、ロックイン測定の第二次高調波成分を測定することで、抵抗の電流依存成分を検出することに成功した。観測された第二次高調波シグナルは、極性方向と磁場、電流がそれぞれ垂直な方向に位置する配置でのみ有限となり、電流と磁場が平行な配置では電流依存した優位な抵抗差は見られないこと、非相反シグナルは磁場や電流に線形に増大し、それらの方位に依存することを明らかにした。また、非相反電荷輸送現象の符号は試料の極性方向に依存して反転すると考えられるが、実際、BiTeBrにおける非相反電荷輸送現象のシグナルの符号はデバイス依存すること、極性ドメインの大きさが小さく、マルチドメインであると考えられるBiTeI試料では観測されなかったことから、観測された電流依存磁気抵抗効果が極性ドメインの向きとそれに対応した特異なバンド構造を反映していることが強く示唆された。 これらの振る舞いは、極性物質特有の非相反電荷輸送特性であり、3次元極性物質における非相反電荷輸送としては初めての報告である。また、理論グループとの共同研究により、観測された非相反電荷輸送シグナルはラシュバ型スピン分裂バンドの磁場印可による変形を考慮したモデルで定量的に解析・解釈することができた。BiTeBrにおける非相反電荷輸送シグナルは、現在までに報告されている非磁性体界面や掌性を持つ3次元系に比べて大きく、結晶対称性の破れに起因した巨大整流作用への指針を得たと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、非磁性体、特に極性半導体BiTeXにおいて、ラシュバ型スピン分裂バンドに起因する新規量子スピン輸送現象を開拓することで、省エネルギースピントロニクス確立に向けた、非磁性体スピントロニクスの基礎学理構築を目的としていた。本年度は、極性半導体BiTeBrにおいて、ラシュバ型スピン分裂バンドに起因した電流の非相反輸送現象という新規輸送現象を観測することに成功した。これは、スピン分裂バンドを用いた整流作用と捉えられ、スピン軌道相互作用を用いた電流の新たな制御性を開拓したという点で、上述目的は十分に達成できたと考えられる。加えて、理論グループとの共同研究により、観測した現象の定量的な解析・解釈が可能となった。これは当初予想していた結晶対称性からの現象論的理解を超える進展であり、電流の制御性を向上させる上での重要な物質の設計指針が得られたという点で極めて重要な結果である。
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今後の研究の推進方策 |
発見した極性半導体における非相反電荷輸送現象研究を推進する。特に、非相反電荷輸送シグナルの最適化・制御性向上を目指して、イオン液体を用いた電気二重層トランジスタデバイスを作製し、単一デバイスにおけるキャリア数制御を行い、シグナルのキャリア数依存性を調べる。 また、非相反電荷輸送現象とスピン流との関係性を明らかにするために、磁性電極を用いたスピン流の直接観測やスピン注入応答を調べ、非相反電荷輸送シグナルとの符号の対応性や大きさの相関等を議論し、極性半導体におけるスピン流物理確立を目指す。 さらに、対象物質をBiTeXだけに限らず、類似の極性を持つ物質である、酸化物SrTiO3界面や遷移金属ダイカルコゲナイドMoTe2、掌性を持つ遷移金属ダイカルコゲナイドナノチューブ等にまで広げ、非相反電荷輸送現象が普遍的な現象であることを実証するとともに、常伝導相のみならず、超伝導相における非相反電荷輸送現象といった新規輸送現象観測も試みる。加えて、非極性・極性構造相転移を起こす物質において、非相反電荷輸送現象の逆効果である、電流による極性ドメイン制御研究にも取り組む。
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