研究課題/領域番号 |
15H06147
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊澤 大介 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 助教 (70754927)
|
研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
|
キーワード | 染色体分配 / APC/C / ユビキチンリガーゼ |
研究実績の概要 |
本研究計画は、ヒト細胞においてユビキチン付加酵素複合体APC/C-Cdh1によるインナーセントロメア制御機構を明らかにする事により、がん化抑制におけるAPC/C-Cdh1の知見を深める事を目的とした。平成27年度に得られて主な結果は以下の点である。 1)ヒト培養細胞(HeLa細胞)において、Cdh1をRNAi法で抑制した細胞で染色体分配異常の指標であるLagging Chromosomeが高頻度で発生した。2)Cdh1を抑制した細胞では、インナーセントロメアの中心的な役割を果たすSGO1の局在量が低下していた。興味深い事に微小管に結合し張力がかかっている染色体でのみSGO1の局在量の低下が見られた。3)コヒーシンサブユニットであるScc1をmycタグ標識し細胞に発現させところ、Cdh1が抑制している細胞ではコヒーシンの局在量の低下が見られた。SGO1同様、張力がかかっている染色体でのみコヒーシンの局在量の低下が見られた。4)コヒーシンの負の制御因子であるWAPLをCdh1と共にRNAi法で抑制したところ、インナーセントロメアにおけるSGO1の局在量の低下が抑圧された。以上の結果から、APC/C-Cdh1は、SGO1-コヒーシン経路を通してインナーセントロメアの制御を行っている可能性が示唆された。 今後は、Cdh1によるWAPLを介したインナーセントロメア制御の可能性の検証と、APC/C-Cdh1と相互作用するクロマチン因子の探索を行う。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の解析から、Cdh1抑制によるSGO1の局在量の低下が発見され、APC/C-Cdh1がインナーセントロメアに制御に関わる新しい可能性が示唆された。SGO1と結合する因子の中の一つであるコヒーシンの局在量が低下している観察結果から、Cdh1抑制によってこれまで報告されているインナーセントロメアにおけるSGO1ネットワークに異常が見られ、APC/C-Cdh1がインナーセントロメアに制御に関わるさらなる証拠となる。しかし、張力がはった状態でSGO1とコヒーシンの局在量が低下する理由までは示せていない。今後は、Cdh1抑制によるSGO局在量の低下とLagging Chromosomeの発生の因果関係を示す事が課題である。
|
今後の研究の推進方策 |
APC/C-Cdh1は基質にポリユビキチン化修飾を付加しタンパク質の分解を促進する因子である。このことから、APC/C-Cdh1は、SGO1-コヒーシンを制御する因子のタンパク質量の制御を通して、インナーセントロメアを制御している可能性を考慮し、APC/C-Cdh1の基質を探索する。 コヒーシンを負に制御するWPALとCdh1をともに抑制するとSGO1の局在が戻る事から、Cdh1によるWAPLの制御があるか検証する。WAPLはこれまで知られているCdh1の結合配列を複数持っており、その部位に変異を導入した時に、Cdh1を抑制したときと同様インナーセントロメアにおけるコヒーシンとSGO1の局在量が低下するか検証する。 これまでflagタグで標識したCdh1が、インナーセントロメアに隣接する動原体に局在することを観察している。クロマチン(染色体)画分から抗Flag抗体で3Flag-Cdh1を免疫沈降し、Cdh1に結合するクロマチンタンパク質を質量分析で同定し、解析の手がかりを得る。
|