研究課題/領域番号 |
15H06150
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩田 容子 東京大学, 大気海洋研究所, 講師 (60431342)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | 海洋生態 / 海洋資源 / 水産学 |
研究実績の概要 |
環境変動に応じて、成熟サイズや生殖腺へのエネルギー投資など、資源個体群の繁殖特性に変化が生じ、それが個体群変動にも影響することが考えられる。沿岸性水産重要種であるヤリイカの雄には大型ペア雄と小型スニーカー雄という二型があり、様々な繁殖形質において明確な変異が見られる。海洋環境変動は、成長条件によってこのような各雄の割合や成熟サイズ組成など、個体群の繁殖特性を変化させる可能性が考えられる。 そこで、本研究ではまず、ヤリイカの繁殖期間中である1月から4月に、各月約130個体の成熟個体を解剖し、外套長・体重・生殖腺重量を測定し、平衡石を採集した。雄においては繁殖戦術(ペアかスニーカーか)、雌においては付着精子隗の有無を確認し、成熟サイズ組成や二型の割合の季節変化を調べた。その結果、繁殖期後期に小型スニーカー雄の割合が大きいことが明らかとなった。 また、海洋生物が経験した海洋環境(主に水温)を調べる手法として、近年硬組織における微量元素組成が着目されている。そこでイカ類の平衡石を用いた微量元素分析の手法確立のため、樹脂による包埋や研磨の手法を検討し、分析手法を確立した。次に、硬組織の微量元素組成から過去の経験環境を推定するためには、既知の水温でイカ類の平衡石の微量元素組成がどのように異なるかを調べる必要がある。そこで飼育によりこれを検証する実験を行なった。北海道函館市の定置網に入ったヤリイカ未成熟個体約100個体を、馴致期間の後、異なる水温(8度・12度・16度)に分け、約1ヶ月間の給仕飼育を行った。異なる水温に移すタイミングでテトラサイクリン溶液に浸した餌を与えることにより、硬組織へ実験開始時期のマーキングを行なった。しかし、生残率が低く充分な標本数を得ることはできなかった。特に低水温区での生残が悪かったことから、未成熟期と成熟期で適水温範囲が異なる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本課題では、硬組織(平衡石)の微量元素組成から過去の経験環境を推定することにより、海洋環境が成熟サイズや生殖腺投資、繁殖戦術といった個体の繁殖特性にどのように影響するかを調べることを目的の一つとした。そのためには、平衡石を用いた微量元素分析を行う実験手法の確立とともに、既知の水温でイカ類の平衡石の微量元素組成がどのように異なるかを調べるため、複数の水温設定で飼育実験を行い、経験水温がわかる個体を使ってキャリブレーションする必要がある。しかし、遊泳能力が高く回遊性の強いツツイカ類は、水質や水温に敏感であるため、長期間飼育することが非常に難しいことが知られている。 本研究では、成長率が高い時期の亜成体を用いて、8度・12度・16度の水温範囲を設けて飼育実験に行った。しかし、実験期間中の生存率が悪く、分析に十分な標本数を得ることができなかった。生存率が悪かった要因として、第一に活発な摂餌による水質の悪化が考えられた。また、これまでヤリイカ類の生息適水温帯は、主な漁獲対象である成熟個体を用いて調べられており、繁殖期(冬季)は6度でも生息可能であり、産卵適水温は卵の発生適水温から8-15度であることが知られている。そこで本研究では、主に経験するであろう水温の幅をカバーするため、飼育実験における低温区は8度と設定したが、生存率は特に8度で著しく低かった。このことは、成体と亜成体では、生息に適した水温が異なる可能性を示している。個体の成長・繁殖にとって重要な時期である亜成体期の生息場所や生息水深・水温などの生態はまだほとんど分かっていないため、これらの情報が強く望まれる。
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今後の研究の推進方策 |
本課題期間中において、飼育実験により経験水温と平衡石の微量元素組成との関係式を導くためのサンプルを充分に得られなかったため、平衡石微量元素分析により経験環境を推定し、その結果と成熟サイズや生殖腺重量などの繁殖特性値を比較することは困難である。 そこで、今後の方策として2005-2008年、2014-2016年の1月から4月に採集・測定した生物データを用いて、経験した年や季節による違いに着目してデータ解析をすることに重きを置く。直接経験環境を推定することはできないが、これらの標本は年や季節により異なる環境を経験したと想定されるため、本課題の主目的である、海洋環境が個体群における成熟サイズ組成、雄二型の割合、生殖腺への投資へどのように影響しうるかを検討することができると考えられる。
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