Actin rearrangement-inducing factor 1 (ARIF-1)はバキュロウイルスの4回膜貫通タンパク質で、宿主昆虫の組織におけるウイルス感染拡大効率を格段に向上させることを明らかにしたが、その詳細なメカニズムは不明であった。そこで本研究では、ARIF-1が作用する分子機構を解明し、それをin vitroの実験系で実証することを目標として研究を行った。 平成27年度の成果により、AIRF-1の一部のアミノ酸領域がその機能や修飾に重要であることが明らかになったため、平成28年度はARIF-1の機能に重要なアミノ酸領域をより詳細かつ網羅的に同定することを試みた。その結果、ARIF-1の第1および第2細胞外ループに存在する種間で保存性の高いアミノ酸残基がARIF-1の機能に重要であり、かつARIF-1のリン酸化修飾や出芽ウイルス粒子へのリクルートに重要であることが明らかになった。一方、ARIF-1のC末端側に存在する細胞内領域も機能やリン酸化修飾に重要であり、そのうち第4膜貫通ドメイン以降の約120アミノ酸残基の領域がヌクレオキャプシドとの結合に重要であることが示唆された。 また、これまでバキュロウイルスが体液中から組織内に進入する際は、気管の末端の細胞からのみ侵入できると考えられていた。しかしながら、ウイルス感染組織の詳細な観察の結果、ARIF-1が存在することで気管の非末端領域からも侵入できるようになることが明らかになった。すなわち、バキュロウイルスはARIF-1を介した新規の感染ルートという、当初の予想とは異なるメカニズムで全身感染効率を向上させていることが明らかになった。
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