化膿レンサ球菌は、DNaseを分泌して好中球細胞外トラップ(Neutrophil extracellular traps:NETs)を分解し、好中球による宿主自然免疫機序を回避する。本研究では、化膿レンサ球菌の病原性として、NETs分解産物の細胞毒性に着目して検討を行った。平成28年度は、前年度に全ゲノム配列を解析した化膿レンサ球菌臨床分離菌株から、標的遺伝子領域を各1個欠損させた単独欠損株を4株得ることができた。すなわち、NETs分解に作用するDNaseとして既知の3遺伝子と、ホモロジードメイン検索で新規に見出した2種の5'-nucleotidaseを合わせた合計5つの候補遺伝子領域を、温度感受性ベクターを用いた遺伝子工学的操作によりそれぞれ単独欠損させることを試み、4種類において遺伝子欠損株作製に成功した。これら4種類のDNaseまたはnuclease欠損菌株は、液体培地内で野性株と同等の成長曲線を示した。しかし、DNA分解能については、培養時間に比例して野生株と概ね同等のDNA分解作用を示し、残存したDNaseが相補的に作用したと考えられた。化膿レンサ球菌の病原性に関して、DNase単独欠損株を用いた研究報告は多数みられるが、本研究仮説の検証には、DNase作用を完全に除去した化膿レンサ球菌菌株を得ることが不可欠である。従って、今後は確実なDNaseである3遺伝子の重複欠損菌株ならびに5つの候補遺伝子領域すべての重複欠損菌株の作製と培養細胞および実験動物に対する作用の検討が必要である。
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