研究課題
本年度はFli1+/-マウス由来細胞におけるTLRシグナリング経路分子についての検討を行った。具体的には、Fli1の発現低下が各種TLRの発現量あるいはそのシグナリングに影響を及ぼすかどうかについて、線維芽細胞、B細胞をFli1+/-マウスより単離し、野生型マウス由来のそれらの細胞に比較することにより評価を行った。各細胞の単離に当たっては、線維芽細胞については1-2日齢のマウス皮膚を全層で剥離、採取し洗浄したあとディスパーゼ、コラゲナーゼ処理により分離する、B細胞についてはマウス脾臓から脾臓細胞を単離しさらにCD19抗体を用いてMACSにより単離する、ことによって行った。これらの細胞で、各種TLRの発現量をreal-time PCR法および免疫ブロット法を用いて比較検討したところ、全身性強皮症の病態においてそのシグナリングの異常活性化が重要な役割を果たすとされるTLR4の発現がFli1+/-マウス由来の上記細胞で上昇していることが明らかになった。さらに野生型あるいはFli1+/-マウスから単離したこれらの各種の細胞をin vitroでLPSを添加し、培養上清中の代表的な炎症性サイトカインIL-6の濃度を比較したところ、Fli1+/-マウス由来細胞の培養上清中の濃度は、野生型マウス由来細胞の培養上清中の濃度に比較して高値であることが明らかとなった。さらに、ヒトのcell lineでのin vitroでの実験も開始している。ヒトの培養細胞株であるヒト新生児包皮皮膚線維芽細胞をFli1siRNAあるいはコントロールとしてscrambled non-silencing RNAで処理しmRNAを回収し、各種TLRの発現を比較したところ、上記での知見と併行するように、Fli1siRNAで処理した線維芽細胞はコントロールと比較してTLR4の発現が上昇していることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
当初本年度の実験として計画したFli1+/-マウス由来細胞におけるTLR分子の解析については、TLR4とFli1の関連について、線維芽細胞とB細胞を用いて明らかにすることができ、その成果が得られている。また、cell lineを用いたin vitroの実験も予定通りに実施し、すでに線維芽細胞については上記のin vivoでの結果を支持する結果を得ている。本年度の実験計画として予定していた内容を実施しておおむね成果が順調に得られていると考えられる。
転写因子Fli1とTLRシグナリング系の相互作用が強皮症の病態において果たす役割についてさらに検討するため、我々の保有しているマウスを交配し2 重欠失マウスを作成してその表現型についてのin vivoでの解析を行う。具体的には、Fli1+/-とTlr4-/-マウスを交配させることでFli1+/-;Tlr4-/-マウスを作成し、野生型マウスとFli1+/-マウス、およびFli1+/-;Tlr4-/-マウスにおいてブレオマイシン(BLM)誘発強皮症モデルマウスを作成、線維化を誘導し、皮膚と肺に生じる変化の違いについて、病理組織学的かつ分子生物学的に検討する。病理組織学的検討では、HE 染色および免疫染色により①皮膚の厚さ・肺線維症の程度の違い②炎症細胞浸潤の違いなどについて検討する。分子生物学的には、皮膚組織、肺組織において、②Col1a1,Col1a2 などの線維化関連遺伝子のmRNA の発現量や、各種サイトカインのmRNAの発現量について検討する。さらに血清中および気管支肺胞洗浄液中における各種サイトカインの発現量をELISAで測定するほか、気管支肺胞洗浄液においては、フローサイトメトリーを用いてマクロファージの極性やB 細胞等リンパ球のサブセットの違いについて検討する。
すべて 2015
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British Journal of Dermatology
巻: 173 ページ: 681-9
10.1111/bjd.13779