研究課題
1,マウス腹膜癌モデルを用いた腫瘍内微小環境の検討:マウス腹膜癌モデルを用いて、腹腔内環境構成成分の変化を経時的に検討した。マクロファージ、好中球、樹状細胞、T細胞に注目した。その結果、癌進展に伴い著明らかな変化を認めたのは、好中球の腹腔内への誘導、樹状細胞の分画の変化、CD8/CD4比の上昇が認められた。腫瘍内微小環境の構成細胞の変化とともに、IL6やTNF-αなどの炎症性サイトカインの上昇とIL-10の上昇を認めた。次に、癌遺伝子による微小内環境の変化も検討した。K-RASを導入したマウス腹膜癌細胞株による腹膜癌モデルでは、IL-6, IL-10の上昇とともに腹水産生の促進を認めた。さらに、K-RAS導入株での腹膜癌モデルでは腹腔内好中球の誘導が著明に促進された。上記の結果より好中球に注目して検討を行った。K-RAS導入株腹膜癌モデルで好中球の働きを検討するため、好中球除去抗体を用いて好中球を除去した。その結果、腹膜癌の進展は好中球除去群でより促進され、さらにIL-6の増加、CD8/CD4比の認めた。この結果より、好中球はCD8を増加させ抗腫瘍的に働いていることが示唆された。次に、好中球のT細胞活性化マーカーを検討した。T細胞活性化マーカーとしてT細胞の共刺激分子であるCD80, CD86, OX40Lの発現を検討した。その結果、K-RAS導入腹膜癌モデルの好中球ではこれらの共刺激分子の発現が誘導されていることがわかった。2, ヒト検体を用いた腫瘍内微小環境の検討:腫瘍内微小環境において、腫瘍関連マクロファージ(TAM)と癌関連繊維芽細胞(CAF)が炎症性サイトカインやケモカインを産生することにより癌進展を促進することは知られている。このためTAMやCAFの炎症性サイトカイン産生を抑制する方法を検討した。抗炎症作用をもつポリフェノールとして知られるレスベラトロール(RVT)がin vitroでTAMやCAFからのIL-6の産生を抑制することが分かった。
2: おおむね順調に進展している
当初は、TAMとCAFに注目してまず第一にトランスクリプトーム解析から始める予定であった。しかし、実際のマウス腹膜癌モデルの検討によって卵巣がんにおける腫瘍内微小環境でもっともダイナミックに変化しているのは好中球やT細胞であることが示唆された。そのため、平成27年度はまず好中球やT細胞の特徴の検討を行った。その結果上記の研究成果を得た。一方、TAMやCAFにおける検討としては、これらの腫瘍促進に関する増悪因子で明らかなものに注目してそれをターゲットとする検討をまず行った。抗炎症作用をもつ物質はTAMやCAFにも同様に抗炎症的に働く可能性が示唆された。このように平成27年度は腫瘍内微小環境の構成成分のそれぞれの機能解析と特徴解析、またTAMやCAFに関しては抗炎症に注目した検討をおこなった。
1、腫瘍内微小環境のトランスクリプトーム解析:当初はTAMやCAFのトランスクリプトーム解析を主体とする予定であったが、実際のマウス腹膜癌モデルの検討によって卵巣がんにおける腫瘍内微小環境でもっともダイナミックに変化しているのは好中球やT細胞であることが示唆された。このため、最も着目する細胞を好中球やT細胞に変更を行う。これまでの検討から好中球とT細胞が互いに関連していることが示唆された。まず、好中球のin vitro、in vivoでのT細胞への影響をT細胞の活性化マーカーや疲弊マーカーに注目して検討を行う。その後、好中球を高純度で単離できた場合好中球の網羅的トランスクリプトーム解析を行う。それにより癌による好中球のトランスクリプトームの変化を明らかにし、腫瘍内環境における好中球の抗腫瘍的働きを誘導する因子の検討を行う。T細胞にも同様に注目し、癌によりCD8/CD4比が増加する機序や好中球除去によりCD8/CD4比が減少する機序を検討する。T細胞疲弊が報告されつつある。腹膜癌モデルを用いてT細胞疲弊の検討を行う。T細胞疲弊に関するトランスクリプトームの変化や腫瘍内微小環境の因子の検討を行い、T細胞疲弊の回避方法などを検討する。2、TAMやCAFを用いた検討:平成27年度に引き続き、in vitroで効率的にTAMやCAFからの炎症性サイトカインやケモカインの産生を抑制する方法を検討する。効率的に抑制できた場合、これらの方法がin vivoのマウスモデルにおいて抗腫瘍的効果を持つか検討を行う。また、効率的に抑制する方法が確立できた場合、その薬剤や方法によるTAMやCAFのトランスクリプトーム発現への影響を検討する。
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Am J Reprod Immunol
巻: 75 ページ: 486
10.1111/aji.12489. Epub 2016 Jan 19