研究課題/領域番号 |
15H06174
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
木下 淳 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (10755648)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | MnSOD / SOD2 / 騒音性難聴 / 酸化ストレス / ミトコンドリア |
研究実績の概要 |
聴覚や平衡障害をきたす内耳障害は種々の要因から内耳における活性酸素種(ROS)が増加し、ミトコンドリア機能不全に陥ることがその重要な原因の一つと考えられているが、内耳障害時のROS処理機構は明らかではない。MnSOD(Manganese superoxide dismutase; SOD2)はミトコンドリア内に存在する主要な抗酸化酵素であり、本研究ではMnSOD遺伝子改変動物を用いて内耳障害時のROS処理機構を解明すべく研究を行った。 はじめに、MnSOD floxマウスとCAG-Creマウスを交配させて全身性MnSODヘテロ欠損(Sod2+/-)マウスを作製し、背景動物であるC57BL/6マウスを対照(Sod2+/+)とした。次に各群に120dB SPL、4kHzオクターブバンドノイズを4時間暴露し、一過性騒音性難聴を生じさせた。聴力は騒音暴露前、1時間後、1、3、7、14日後に聴性脳幹反応(ABR)にて4、8、16、32 kHzの閾値を測定した。騒音暴露14日後の内耳切片を作製し、蝸牛の頂、中、基底回転における内/外有毛細胞生存率を解析した。 その結果、騒音暴露1時間後の平均ABR閾値はSod2+/-が88.4dB、Sod2+/+が84.5dBと同程度の難聴を示したが、その後の聴力の回復はSod2+/-群の方が悪く、騒音暴露14日後ではSod2+/-が54.0dB、Sod2+/+が43.4dBとSod2+/-群が有意に高かった。内有毛細胞生存率はSod2+/-が頂回転で軽度の低下を示すのみであったが、外有毛細胞生存率は全回転でSod2+/-群が有意に低下していた。 以上より、MnSOD減少に伴って騒音暴露後の聴力回復遅延と有毛細胞障害が生じることが示され、内耳におけるROS処理にMnSODが関与することが示唆された。 これらの結果をもとに翌年度の研究を遂行予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
全身性MnSODヘテロ欠損マウス(Sod2+/-)を作成し、騒音曝露後の聴力変化、組織学的変化を観察することはできたが、その後は遺伝子改変動物が十分に作成できず、騒音曝露直後の酸化ストレスマーカー測定や、有毛細胞特異的MnSOD欠損マウスを作成するための準備が進まなかった。以上の理由で本研究課題の進捗はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
有毛細胞特異的MnSOD欠損マウスの作成し、その表現型を解析することは研究期間内での達成は困難と考えられる。このため、聴力評価は不能であるが、不死化内耳培養細胞House Ear Institute-organ of Corti 1 (HEI-OC1)にMnSODのSiRNAを導入することでin vitroのMnSODノックダウン実験系を確立し、内耳組織におけるMnSOD活性低下のモデルとして代用し、内耳毒性薬物などのストレス負荷後の抗酸化酵素活性やストレスマーカー測定、細胞カウントを行い、当初の実験の代替とする。
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