急性的・慢性的なアルコールの過剰摂取は心筋障害を引き起こすことが知られているが、その分子機序は未解明な部分が多い。本研究では、培養心筋細胞HL-1細胞を用いてアルコールによる心筋細胞障害機序の詳細を明らかにすることを目的とした。これまでに、エタノールがアポトーシス型細胞死を誘導すること、細胞間接着(ギャップジャンクション・デスモソーム・アドヘレンスジャンクション)や細胞骨格を傷害すること、またエタノールによる心筋細胞障害に関わる新規分子機構として、細胞増殖や細胞死を制御するHippo-YAP経路を破綻させることを明らかにしている。 今回、エタノールを曝露したHL-1細胞では、Hippoシグナルの標的となる転写共役因子YAPの核移行が障害され、YAPの標的遺伝子である細胞増殖・生存に重要なCTGFのmRNA及びタンパク質発現量がエタノール曝露後時間依存的に減少することが示された。エタノールによる細胞死に対するYAPの影響を調べるため、HL-1細胞に恒常的活性化型YAPを発現させた結果、エタノールによるアポトーシスが抑制されることが示された。YAPはHippoシグナル非依存的に、アクチン細胞骨格の動態変化に応じて核移行が調節されていることが報告されている。そこで、エタノールによるアクチン細胞骨格の破綻と細胞死との関係を調べるため、アクチン線維の脱重合阻害剤によってアクチン細胞骨格の再構築を促した結果、エタノールによるアポトーシスが有意に抑制された。 これらのことから、エタノールによるアクチン細胞骨格の破綻とYAPの機能阻害がアルコールによる心筋細胞障害に関わる重要な因子であることが明らかとなった。
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