研究課題/領域番号 |
15H06192
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮本 隆史 東京大学, 東京大学文書館, 特任助教 (20755508)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | デジタル人文学 / 比較制度史 / 東洋史 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、目標とした監獄規則の文献学的な分析のために、書誌的調査と必要な資料の収集を行なった。中でも、英領インドの北西州および海峡植民地の監獄に関わる規則集と年次報告を中心に、1860年代以降より独立にいたるまでの資料のうち、これまでの収集からもれていたものを集めた。デリーの中国研究所のブリジ・タンカ教授とピーター・ジョイ・ハドソン氏とは随時意見の交換を行なった。また、日本の監獄としては集治監に注目し、とりわけ福岡県大牟田市にあった三池集治監に関係する資料の収集を開始した。主に、大牟田市立図書館、矯正図書館、三井文庫などで資料収集を行なった。これらの三池集治監関係の資料の収集は開始したばかりであるため、本格的な分析は次年度に行なうこととした。 初年度は、監獄関係文献のテキスト化・コード化の基礎的作業として、TEI-XMLとりわけTEI-Liteをもとに最適なコード化の方法を研究した。具体的な資料としては、英領期インドの北西州の監獄規則のテキスト化・コード化を進めた。また、コード化した資料を用いて、段階的処遇方式と下級看守の雇用方式に関する制度に注目し分析を行なった。 メタデータ入力作業および分析の効率化のための支援システムとしては、時系列的にテキストを比較するためのSENDAGI: Metahistory Trackerの開発を開始した。これは、次年度も開発をつづけ、制度史研究に有用な汎用的支援システムを目指すこととした。また、コンコーダンス機能を援用したテキスト編集ツールNEZU: Concordance Editorの開発を次年度に開始することとし、そのための基本デザインを作成した。 この作業の過程で得られた考察の一部は、「デジタル・ヒストリーと制度」(『東京大学大学院情報学環社会情報研究資料センターニュース』)として発表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定どおり、文書資料の分析のための基礎研究を開始した。具体的には、英領インドの監獄規則のコード化とその文献学的な分析を開始している。こうした文献資料の構造をコンピュータに明示的に与えるために、テキスト化・コード化を開始した。デジタル人文学の分野で広く使われているTEI-XMLをもとに、刑罰関係資料に最適なコード化の方法を研究した。 支援システムとしては、エンジニアの協力のもと、時系列的にテキストを比較するためのSENDAGI: Metahistory Trackerの開発を開始した。これを活用することで、歴史資料どうしの比較が容易になることが期待される。特に、制度の規則類は時系列的に変化するため、その分析を支援するためにテキストの時系列比較は有用である。また、監獄規則類のコード化の実際の作業から、コーパス言語学などで頻繁に使われるコンコーダンス機能が非常に有用であることがわかった。そこで、このコンコーダンス機能を援用したテキスト編集ツールの開発を行なうこととした。このツールは、NEZU: Concordance Editorと名付け、その開発を次年度に行なうため本年度は構想を固めた。 一方で、日本の監獄規則については、膨大な文献群の全体を本研究で扱うことは困難であることが明らかになったため、焦点を絞って制度変化を観察することとした。そのために、福岡県大牟田市にあった三池集治監の関連資料を集中的に観察することとした。このための資料収集は次年度も継続する。
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今後の研究の推進方策 |
アジアの英領植民地の監獄制度については、本研究で必要とする資料の収集がほぼできているため、それらの資料分析を中心に進める。必要に応じて補足的な資料は収集することとする。デリーの中国研究所のブリジ・タンカ教授とピーター・ジョイ・ハドソン氏とは引き続き意見の交換を行なう。 日本の監獄制度、なかでも三池集治監については、本年度の資料調査では不十分であったため、次年度も引き続き現地での資料収集を行なう。特に、大牟田市史編纂室との協力関係を本年度中に築くことができたため、次年度も研究協力体制を強化しつつ資料収集を行なう。 資料のテキスト化・コード化については、業者に基礎的な作業を委託しつつ、詳細部分にいたるまで作業を進めていく。この過程で得られる知見を、支援システムの開発にフィードバックする。支援システムとしては、本年度に開始したSENDAGI: Metahistory Trackerの開発を進める。また、NEZU: Concordance Editorについても、次年度に開発を行なう。これらの開発については、エンジニアの協力を得ながら、必要に応じて業者委託を行なう。 本研究で得られた成果については、国際学会や学術誌等での発表を中心に、学術的にも社会的にもフィードバックしていく。
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