研究課題/領域番号 |
15H06193
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
木須 一彰 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80755645)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | リチウムイオン二次電池 / 高出力エネルギーデバイス / リン酸鉄リチウム / ナノコンポジット |
研究実績の概要 |
本研究では高出力密度を有する新規リチウムイオン二次電池の創製に向け、安全性・安定性に優れるリン酸鉄リチウム正極材料の高速充放電時における反応メカニズム機構を明らかにし、高速充放電化することを目的としている。具体的な研究項目は、①「粒径制御」、「炭素材料との複合化」などの一般的な手法に加えて、「bc面の歪み因子」、「結晶相と非結晶相」、「導電材との接合」が充放電速度に与える影響の解明、②上記項目を最適化したリン酸鉄リチウム炭素複合体構造の提案及び作製、③他電極材料及びポストリチウムイオン二次電池への展開、である。昨年度は、10nm程度のリン酸鉄リチウムを中空炭素内に内包担持させたリン酸鉄リチウム炭素複合体を作製し、キャパシタ級の高速充放電を達成すると共に、本複合体をモデル電極材料として、「結晶相と非結晶相」、「導電材との接合」と充放電速度との関係の解明を行った。作製された複合体中のリン酸鉄リチウムは中心に結晶相、その外側に非結晶相を有するコアシェル構造を有しており、炭素導電材との直接的な接合を有していることが確認された。結晶相は従来報告されたリン酸鉄リチウムと同様の挙動を示す一方で、非結晶相は結晶相より低い反応電位を有しており、かつ非常に早い充放電が可能であることを明らかにした。また、導電材とリン酸鉄リチウムの直接的な接合を有している本複合体とその接合を焼成によって失わせた材料を比較する事で、接合が電子伝導性を大幅に向上させ、充放電速度を飛躍的に向上させることを明らかにした。現在は、「bc面の歪み因子」と充放電速度との関係性を明らかにすると共に、昨年度明らかとなった知見及び手法を元に、他電極材料及びポストリチウムイオン二次電池への展開を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施概要に示した通り、今年度は、「結晶相と非結晶相」、「導電材との接合」とリン酸鉄リチウムの充放電速度とが密接な関係にある事を明らかにすると共に、リン酸鉄リチウム炭素複合電極によってキャパシタ級の高速充放電の達成した。したがって、高出力デバイスを創出する上で、一定の指針示すことができたと考えられる。次年度は「bc面の歪み因子」と充放電速度の関係性を明らかすると共に、得られた知見から最適な電極構造を提案し、他材料への展開に取り組むことが可能である。本研究は当初計画のお通り、おおむね順調に進展しているものと言える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の研究計画は、今年度明らかにしたリン酸鉄リチウム炭素複合体の高速充放電反応メカニズムを元に、リチウムイオン二次電池の更なる高出力密度向上及び高エネルギー密度向上に向けた、新規複合電極材料の作製を行う。以下に具体的な研究計画予定を示す。 (1) リン酸鉄リチウム炭素複合体の最適化:「bc面の歪み因子」と高速充放電化との関係性を明らかにした上で、効果的で最適な構造体をデザインする。加えて、最適と考えられるリン酸鉄リチウム炭素複合体構造の合成方法においては、ゾルゲル合成法や水熱合成法、固相合成法などの中から最も効果的な手法を検討し、目的複合体を作製する。また、この際に使用する炭素材料としては、中空構造を持つケッチェンブラック以外のカーボンナノチューブやカーボンナノホーンなどの炭素材料も検討項目とする。 (2) リン酸塩系正極材料全体への適用及び高速充放電化への展開:エネルギー密度を飛躍的に向上させるには、蓄電デバイスに用いる正極・負極電極材料の反応電位の差すわなち電圧を高くする事が効果的である。本研究で主に取り扱っているリン酸鉄リチウム(LiFePO4)と同じオリビン系構造を持ち、反応電位が高いLiMnPO4やLiCoPO4、LiNiPO4及びそれらの固溶体に対して、本研究で最適化した複合体構造を適用することで、蓄電デバイスのエネルギー密度向上を図る。加えて、他の結晶性電極材料(LiCoO2, LiMn2O4, Li3VO4, Li4Ti5O12)や他の蓄電デバイス(ナトリウムイオン二次電池、マグネシウムイオン二次電池)などに対して上記の構造制御を適用させ、研究を展開する。
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