研究課題/領域番号 |
15H06204
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
川那子 高暢 東京工業大学, 量子ナノエレクトロニクス研究センター, 助教 (30726633)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | マイクロ・ナノデバイス / 自己組織化 / 先端機能デバイス / 電子デバイス・機器 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayer:SAM)を用いたゲート絶縁膜技術を確立し、新機能を有するナノ電子デバイス開拓に向けた異種材料の界面設計を行うことである。本年度は、まず電子デバイスの作製プロセスを確立した。SAM自体の形成手法は既に報告されているので、これを電子デバイスの作製プロセスへと拡張した。特に半導体プロセスで用いられている、微細加工技術、薬品耐性および材料堆積手法などに対するプロセス整合性を実験的に検証した。続いて、確立したプロセスによって作製した素子の電気特性を評価した。また物理分析を用いて作製した試料の構造を解析した。SAMゲート絶縁膜を用いたMoS2 FETが、正常にトランジスタとして動作することを実証した。また、ドレイン電流-ゲート電圧特性から2V駆動のMoS2 FETの作製に成功した。これは、SAM/AlOxを用いた2層ゲート絶縁膜が極薄膜かつ高い絶縁性を示すことに起因する。さらに、ドレイン電流-ゲート電圧特性からヒステリシスは認められず、サブスレショルドスロープは69mV/decであることから、良好な界面特性を実現できた。透過電子顕微鏡(TEM)による断面観察から、MoS2層、SAM/AlOxゲート絶縁膜、Al gate電極が明確に区別でき、意図した構造になっていることを確認した。また、TEMからMoS2層の膜厚は約45nmであることが分かった。さらにラマン分光の結果から、基板上に転写したMoS2はバルクのMoS2とまったく同じ特性を示すことを確認した。SAMゲート絶縁膜の電気的特性を評価するために、Metal-Insulator-Metalキャパシタを作製した。SAM/AlOxを用いた2層ゲート絶縁膜は、酸素プラズマによって作製した単層AlOxに比べて絶縁特性が優れていることを実験的に示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究によって、素子作製プロセスの基礎を創ることができた。具体的には、自己組織化単分子膜と特定の材料表面との親和性を利用した選択的形成や光学的に透明な誘電体エラストマーとマスクコンタクトアライナを用いた転写法を半導体プロセス技術に組み込むことで独自の素子作製プロセスを構築した。確立した素子作製プロセスと電気特性の評価は、およそ1週間程度で済むことから実験と測定のターンアラウンドを短くすることができ、今後は基礎的なデータをかなり多く得ることができると期待している。現状の素子特性も良好な結果が得られている。特にドレイン電流-ゲート電圧特性にヒステリシスは無く、サブスレショルドスロープも69mV/decと良好な界面特性の実現に成功した。自己組織化単分子膜に基づく本プロセスは、素性の良いアプローチであることを示すことができたと考えている。本研究の成果は、Applied Physics Lettersに採択された。また第63回応用物理学会春季学術講演会でポスター発表を行い、Poster Awardを受賞することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究によって確立した素子作製プロセスの拡張を行う予定である。多種多様な材料を用いた電子デバイスの設計と作製を行うため、柔軟に素子構造や材料を変更可能なプラットフォームを構築することを予定している。また界面設計の手法については、複数のSAMを用いることや、2種類のSAMによる複合分子膜を予定している。溶液に溶かすSAM材料を1種類に限定するのではなく、Terminal functional groupやSpacerの材料および構造の異なる複数種類のSAMを使用することで、MIS構造の設計を行う。その際に、極薄膜かつ高い絶縁性は維持するように注意する。SAMの表面を構成するTerminal functional groupの設計によって界面構造に特徴を持たせる。一方、Spacerを変更することで膜厚を自在に変えることができる。これにより、ゲート絶縁膜内部に存在する電気的に活性な欠陥や固定電荷の位置と量を抽出することを予定している。得られた知見を素子作製プロセスにフィードバックすることで、界面設計を行い新機能の開拓とナノ電子デバイス応用へ展開する。
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