研究課題/領域番号 |
15H06206
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
篠原 百合 東京工業大学, 精密工学研究所, 助教 (30755864)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | 形状記憶合金 / マルテンサイト |
研究実績の概要 |
広い温度範囲にわたって擬弾性が発現するβ基Ti-Au-Cr-Zr合金は無応力下でマルテンサイト変態点を持たず,試験温度の上昇に伴いマルテンサイト誘起応力が低下するという特徴がある.そのメカニズムを解明するために本年度は,負荷前と負荷によってマルテンサイト相を誘起させた試料の内部組織を透過型電子顕微鏡 (室温下) によって観察した.当初,広い温度範囲にわたる擬弾性を発見したTi-Au-Cr-Zr合金は室温で除荷時にマルテンサイト相が逆変態してしまうため,マルテンサイト相の内部組織観察には不向きである.そこで,以下の条件を満たす合金の作製を試みた①冷却によりマルテンサイト変態が起こらない②応力負荷前はβ相 (立方晶) であり,応力負荷によってα″マルテンサイト相 (斜方晶) が誘起し,除荷してもα″マルテンサイトが一部残留する③試験温度の増加に伴いマルテンサイト誘起応力が減少する.Ti-Au-Cr-Zr合金の組成を調整することによって-150℃まで冷却してもマルテンサイト変態が起こらず,室温から120℃の温度範囲で試験温度の上昇に伴いマルテンサイト変態開始応力が低下する合金の作製に成功した.観察の結果,負荷前と負荷後の試料のいずれでもβ相の内部には,試料作製時の急冷によって形成したと思われるathermal ω相 (六方晶) が微細に分散している様子が観察され,電子回折図形上でもathermal ω相に起因する散漫散乱が確認された.一方,マルテンサイト相から得た電子回折図形からはathermal ω相に由来の散漫散乱は得られなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初,広い温度範囲にわたる擬弾性を発見したTi-Au-Cr-Zr合金と同様の特徴を持ち,なおかつ室温でマルテンサイト相が残留する合金の開発に成功した.よって従来の形状記憶合金と内部組織の比較が可能になったことから,研究は順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
今後はマルテンサイト相の室温TEM観察,無負荷状態におけるβ相の冷却その場TEM観察を詳細に行う予定である.加えて,母相とマルテンサイト相のGibbs energy曲線の相対的な位置関係を解明するために,Ti-Au-Cr-Zr合金の母相とマルテンサイト相の熱容量測定を行い,Gibbs energy曲線を求めることを計画している.母相の熱容量測定は溶体化したインゴットにて行う一方,マルテンサイト相の熱容量測定は,溶体化後に応力を負荷することでマルテンサイト単相にした試料を準備して行う予定である.
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