研究実績の概要 |
本研究の目的は,部分酸化前処理とメタノール溶媒存在下での水素化分解処理の2段階処理によるリグニンからの単環フェノール類合成プロセスの開発を行うことである.初年度は,(1)リグニンの部分酸化反応速度の定式化と(2)ベンゾフランのメタノール溶媒中,アルミナ担持白金触媒共存下でのin-situ水素化分解反応の検証を実施した. (1) リグニンの部分酸化反応速度解析:熱天秤を用いリグニン試薬を空気流通下において40 ℃から2, 5, 10 ℃/minの一定昇温速度で昇温した際の重量変化より実施した.いずれの昇温速度においても80~160 ℃の範囲で酸素取り込みによる重量増加を確認した.反応速度解析により,リグニンの重量増加を伴う酸化反応の活性化エネルギーは56~68 kJ/molであることを明らかにし,部分酸化反応条件を決定するための有用な知見が得られた. (2) in-situ水素化分解反応の検証:リグニン熱分解で生成が予想されるベンゾフランをモデル物質とし,メタノール溶媒,アルミナ担持白金触媒共存下で実施した.バッチ式反応器にベンゾフランとメタノール,アルミナ担持白金触媒を充填し,220 ℃で24時間反応を行ったところ,気相水素と2,3-ジヒドロベンゾフラン,o-エチルフェノール,少量のフェノールが生成し,ベンゾフランの転化率は11.5 mol-%に達し,水素利用効率(正味の水素生成量に対する水素化反応による水素消費量)は0.53となった.本反応条件ではフラン環の水素化および水素化分解のみが進行し,ベンゼン環の水素化は見られなかった.反応温度,反応時間を大きくするほどベンゾフラン転化率および水素利用効率は増加したが,気相水素量は10時間以降で大きな変化は見られなかった.触媒上で生成した原子状水素の一部は脱着し,気相へ放出された後再溶解し反応に関与した可能性が示唆された.
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