研究実績の概要 |
転写とはDNAの遺伝配列から、RNAを合成するプロセスである。転写の際には、RNAポリメラーゼが転写元のDNA鎖に結合し、そのDNAを1文字ずつ走査しながら、相補的なRNA鎖を1文字ずつ合成していく(A->U, C->G, G->C, T->A)。この際、RNA鎖の転写済みの部分は、全体の転写が完了するまで1本鎖の状態に留まっている訳ではない。1本鎖の状態は一般に不安定であり、鎖は折り畳まる事で安定する。故に、RNA鎖は転写された部分から、逐次折り畳まっていく。この現象を共転写性フォールディングと呼ぶ。共転写性フォールディングを用いて、RNA極小構造を自己組織化させる手法および実験結果がGearyらによってScience誌に最近発表された。共転写性フォールディングは自己組織化理論における今後の主要課題の一つとみなされている。 今回の研究計画の成果として、Gearyらとともに、共転写性フォールディングの数理モデルとして、折り畳みシステムを提唱し、その計算能力を調べた。我々が日常使用している計算機のモデルとして、チューリングマシンがあるが、折り畳みシステムがチューリングマシンをシミュレートできる事を示した。これにより、共転写性フォールディングを用いて、少なくとも理論上は全ての計算可能関数が計算可能だと示された事になる。この成果は、2015年8月にHarvard Universityで開催された国際会議DNA21 (21st International Conference on DNA Computing and Molecular Programming)にて発表され、計算機科学者のみならず分子生物学者からも大きな反響を得た。更に改良した成果が今年6月にHighlights of Algorithms (HALG2016, Paris, France)で発表される。
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