本研究では,社外取締役の人数など企業内で経営者を評価・監視する体制が,撤退の意思決定に与える影響について検討することを目的にしていた. 研究の2年目で最終年度にあたる平成28年度に行った活動及び成果は,主に2つに分けることが出来る. 第1に,外部から入社した取締役と,撤退の意思決定の関係性を検討した.本研究では,人間は他者の持つ自身に対するポジティブなイメージが傷つくことを恐れるため,外部者による強い監視は,撤退の決断を阻害するという負の影響をもたらす可能性があるという仮説を導出した.その上で,銀行の不良債権処理を撤退の事例として,その可能性を定量的に検討したところ,その仮説を支持する結果を得た.この成果は『組織科学』に査読付論文として採択されている他,研究代表者が所属する大学の公開セミナーにおいて発表し,複数名の一般市民の方を含むそこに参加していた方々と討論を行った. 第2に,取締役や監査役など企業内で経営者を評価・監視する役員が外部から入社するのは,どのような要因によるのかを検討した.これは,第1の関係性を経験的に検討する上で対抗仮説や逆因果の可能性を排除し,より実態に即した議論をするためには,この問題を検討する必要があったためである.ここではまず,メインバンクは融資先の業績が悪化すると,役員派遣をはじめとするシステマティックな介入を行うことが既存研究で示されてきたことを確認した.しかし,財務的に健全な企業やメインバンクを持たない企業の中にも,銀行から役員を招聘する企業は少なくないことも同時に見いだした.そこで本研究では,この要因を明らかにするために,メインバンク研究と資源依存論を組み合わせ,資金の提供者が特定の相手に限定されているほど,パワー不均衡に陥り,役員招聘が行われることを議論し,定量的に検討した.この成果は,『組織科学』に査読付論文として掲載されている.
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