平成28年度は、前年度に行った調査を元に分析を進め、研究成果の取りまとめを行った。具体的には二本の論文、「レコード産業の高度成長と企業間競争の変容-外部環境と競争戦略の変化(1956~1980年)-」『一橋大学大学院商学研究科マネジメント・イノベーション研究センターワーキングペーパーシリーズ』(No.210、2017年)、「レコード産業における後発企業の参入と成長」『一橋商学論叢』(Vol.12 No.2、2017年)として、研究成果を公表した。前者の論文では、1956~1980 年のレコード産業の発展過程と企業間競争の変容について明らかにした。前半期は企業を取り巻く環境は大きく変化せず、技術及び既存の音楽ソフトに強みを持つ戦前期からの上位企業(日本ビクターと日本コロムビア)が支配的な地位を維持したことが明らかになった。しかしながら、後半期には環境変化と共に音楽ソフトの主流が洋楽から邦楽へ転換し、独自の戦略と邦楽ソフト制作に強みを持つ新規参入企業(ソニー)が業界首位となったことを示した。後者の論文では、後発企業がレコード産業への新規参入に成功し、首位企業になるプロセスを明らかにした。同産業では参入障壁と先行者優位が強く働いていたものの、新規参入した東芝とソニーは業界首位に成長した。成長を実現する際には、邦楽ソフトの獲得と流通チャネルの確立が重要な焦点となったことを明らかにした。また、この時期には音楽テープという新技術を用いて新規参入する企業も存在しており、これらの企業の動向も考察した。
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