平成27年度は3つの研究を実施した。 1つめの研究は本研究課題の主要な論点である邦銀の会計行動と与信行動の量的側面に注目した研究である。その分析から,貸倒引当金を保守的に計上している銀行ほど,金融機関貸出態度判断DIで計測された与信環境が悪化している時期に貸倒引当金の保守性が低い銀行と比較して与信に積極的になる傾向にあること,逆に与信環境が良好な時期には貸倒引当金の保守性が高い銀行ほど与信に消極的になる傾向にあることが判明した。本研究は既に英語のフルペーパーを作成し,平成28年度に開催されるヨーロッパ会計学会,アメリカ会計学会での報告に応募済みであり,ヨーロッパ会計学会からは既にアクセプトの連絡を受けている。 2つめの研究は邦銀の会計行動と与信行動の質的側面に注目した研究である。その分析から,貸倒引当金を保守的に計上している銀行ほど,将来の財務業績に関してその水準には有意な差異が見られない一方でボラティリティは低い傾向にあることが確認された。このことは,貸倒引当金の保守性が高い銀行ほど,リスク・リターンの観点から見た与信行動の効率性が高いことを示唆している。現在,分析結果をまとめ,フルペーパーを執筆している。 3つめの研究は邦銀の会計行動と会計利益に対する市場評価の関係性に関する研究である。その分析から貸倒引当金の保守性が高い銀行の正の利益サプライズに対して株式市場はより強く反応する傾向があることを確認している。これは会計処理の保守性が高まることにより市場参加者の利益情報の有用性が高まることを示唆している。本研究は既に横浜経営研究に掲載済みである。
|