平成28年度は主に3つの研究を実施した。 1つめの研究は平成27年度に執筆した邦銀の会計行動と与信行動の量的側面に注目した研究である。平成28年度ではヨーロッパ会計学会(5月開催@マーストリヒト)及びアメリカ会計学会(8月開催@ニューヨーク)に参加・報告を行った。他の参加者とのやりとりのなかで,本研究の日本国外における外的妥当性に関する検討の必要性,銀行の会計行動変数の妥当性に関する検証等の指摘があり,論文のリバイスを行った。本論文は平成28年度末に国際英文ジャーナルに投稿しており,レフェリープロセスが現在進行している。 2つめの研究は貸倒引当金を通じた銀行の利益調整行動に関する研究である。その分析から,貸倒引当金を保守的に計上している銀行ほど,貸倒引当金を通じて利益平準化や赤字回避のための利益増加型の利益調整を行う可能性が高いことが確認された。期待信用損失に対して貸倒引当金を保守的に計上している場合,貸倒引当金を高く計上することになるため,貸倒引当金を通じた利益調整行動を助長する可能性があることを示唆しているといえる。本研究は既に書籍の1章として掲載済みである。 3つめの研究は日本企業の資本コスト推定方法に関する研究である。当初,邦銀の株主資本コストを推定し,会計行動との関係性を分析する予定であったが,十分なデータを収集することができなかった。そのため,代替的な方法として先行研究で提示された株主資本コスト推計方法を適用することを考え,まず日本における当該推計手法の妥当性について分析を行った。その結果,事業会社については当該推計手法によって推定された資本コストの妥当性が担保されることが確認された。本研究は既に横浜経営研究に掲載済みである。今後は銀行データを用いた場合の妥当性を検証し,その後に改めて邦銀の会計行動との関係性について分析を行う予定である。
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