近年の微細加工技術の発達に伴い、気体中や絶縁物表面における絶縁破壊現象が大きな問題とされるようになった。特にマイクロアクチュエータに代表されるようなトルク出力が要求されるMEMSデバイスでは、出力が電界強度によって決定されるため、μm~nmオーダのギャップ間の絶縁の把握が重要なカギとなる。本研究においては、MEMSデバイスを模擬したSiO2ウェハ上のマイクロ沿面ギャップにおける放電機構を検討した。 以下に本研究で明らかにしたマイクロ沿面ギャップ放電機構を述べる。負極性電圧印加時は、陰極からの電子放出が放電の主要因となる。陰極から放出された電子は誘電体表面を帯電させ、表面帯電により誘電体表面から離れたアーチ状の放電経路が形成される。したがって、絶縁破壊電圧は陰極表面の電界に依存するため、ギャップ長によらず一定となり、ばらつきが大きい。 正極性電圧印加時の機構は二通りに分類される。3μm以下のギャップの場合、陰極の表面電界は電界電子放出を発生させるのに十分な電界強度に達しており、負極性印加時と同様に電界電子放出によってアーチ状の放電経路が形成される。3μmを超えるギャップでは陰極からの電子放出の影響は小さく、相対的に陽極近傍の誘電体表面からの電子放出の影響が大きくなる。誘電体表面から放出された電界電子放出電流が陽極表面を加熱させ、金属蒸気が発生することによりタウンゼント型放電に至るものと考えられる。したがって、絶縁破壊電圧は陰極表面、陽極近傍の電界に依存するためギャップ長によらず一定となるが、3μm以下のギャップにおける絶縁破壊電圧ではばらつきが大きくなる。
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