本研究の目的は,いわゆる暗記学習によって断片的に得られた知識を文脈的インプットによって豊かにしていく過程をSLA研究に基づいて考察するとともに,その学習効果の適切な測定方法について検証することである。2年間を通じて,英語を外国語として学ぶ大学生を協力者とした実証実験を2つ実施した。1年目の研究では,協力者はなじみのない英単語(目標語)とその訳語および平易な英語で書かれた例文のリストを学習し(対訳型暗記学習),その直後に新たな英文を読んでそこに目標語の意味を解釈する課題などに取り組んだ。先行研究などでは学習者に対訳型暗記学習をさせる際に例文にまで注意を払わせることは効率的でないという主張もある一方で,本研究の実験結果は,たとえ対訳型暗記学習の最中であっても学習者は文脈の内容を語彙と関連づけて記憶している場合があることを示唆するものであった。そこで,2年目の研究では,例文つきの対訳型暗記学習に加えてPC画面上に映し出された文字列が実在の英単語であるかどうかを瞬時に判断する課題(語彙性判断課題)を実施し,プライミング効果と呼ばれる現象が起きるかどうかを調査した。この実験自体は小規模なパイロット・スタディであったものの,短時間の対訳型暗記学習の中で学習者が語彙と文脈の内容を関連づけて記憶していたことを示唆する重要なデータが得られた。本研究は,2つの実証実験を通して,語彙性判断課題や文脈内での解釈といった課題を通して対訳型暗記学習の効果を測定することを試みたものである。この研究成果を出発点として,今後は対訳型暗記学習の際に得た語彙知識が繰り返しの文脈的インプットによってどのように変化していくのかをさらに検証する必要があるだろう。
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