本研究課題では、日本語の語構成データベースの構築、およびそのデータベースに基づいた用法基盤的な形態論研究を行った。従来、例えば名詞「招き猫」が動詞「招く」と名詞「猫」の複合からなるといった、日本語の語構成情報を網羅的に整備したデータベースは存在しておらず、形態論・音韻論・語彙論分野における電子的な辞書やコーパスを用いた用法基盤的な研究におけるネックとなっていた。本研究では、フリーで公開されている形態素解析辞書である UniDic の見出し語に対応させる形で語構成情報を付与することにより、自由に利用可能な語構成情報データベースを構築するとともに、ウェブ上に検索インタフェースを公開し、機械処理に関する専門知識の有無にかかわらずデータベースが利用できる環境を整備した。このデータベースを利用することで、例えば「名詞+動詞」という構成から成る複合名詞といった条件で日本語の語彙を容易に検索することができる。合わせて、このデータベースを利用した用法基盤的研究として、形態的構文の生産性とその文法的ふるまいの相関についての研究を行った。具体的には、「彼頼み」のような代名詞を内部に含む複合語の分析を行った。このような代名詞複合語の存在は、形式上の語と、いわゆる語彙的緊密性との関係は統計的相関しかないことを示唆しており、語概念をプロトタイプ範疇としてみる視点を支持する。代名詞複合語には、いわゆる統語的複合動詞と呼ばれるクラスとの共通性があり、部分的に語彙的に指定され部分的に空所となった構文イディオムの集合として記述できる。しかし、生産性の高さと代用形の可否とが高い相関を示す複合動詞のケースと異なり、代名詞複合語は生産性とは単純には相関しない。このことは、構文の定着度を頻度に還元することの是非について、用法基盤的な構文文法の形式化における主要な課題を提起しているといえる。
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