作物の耐塩性向上に向け、葉内の過剰塩分を排出する塩腺として働く小毛を増加させる形態形成機構の解明に取り組む。この小毛と食害抵抗に寄与する大毛は共通の起源から分化し、両者の数は植物ホルモンを介して互いに拮抗して増減すると考えられている。本研究では、耐塩性イネ科牧草ローズグラスを対象に、未発達な葉における小毛・大毛の分化過程の形態変化を電子顕微鏡(電顕)レベルで解明し、塩ストレスに応じて両者の数を制御する植物ホルモンを特定することを目指した。 ①小毛と大毛の分化過程の形態変化: 昨年度までに、走査型電顕によって未分化な細胞から小毛と大毛が分化し、成熟していく過程の外形の変化を明らかにしてきた。次に小毛と大毛が分化していく際の細胞内微細構造の変化を電顕レベルで解析することを試みたが、内部構造が複雑な小毛の発達過程を正確に捉えるには、従来の透過型電顕による超薄切片の断面観察ではなく、細胞全体を網羅する立体構造観察を要することが分かった。そこで、集束イオンビーム加工装置-走査型電子顕微鏡(FIB-SEM)を用いた三次元再構築法を植物の葉でも行えるように、まずイネの葉身の葉肉細胞を材料に手法を確立した(Oi et al. 2017 Ann. Bot. 印刷中)。しかし、本年度はローズグラスでの観察までは至れなかった。 ②小毛分化誘導ホルモンの探索: 各種植物ホルモン溶液を生育途中の植物体に茎葉表面から付与し、新たに伸長してきた葉について小毛および大毛の数を調査した。昨年度行ったジャスモン酸、アブシジン酸の2種類の追試に加え、サイトカイニン(ベンジルアデニン)を与える試験も行った。その結果、ベンジルアデニン処理によって小毛と大毛の両方の数が増加することが確かめられた。しかし、塩ストレス時に見られたような小毛だけを増加させる植物ホルモンの特定には至っておらず、今後さらなる調査が必要である。
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