研究課題/領域番号 |
15H06276
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
千葉 壮太郎 名古屋大学, アジアサテライトキャンパス学院(農), 准教授 (70754521)
|
研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
|
キーワード | 菌類ウイルス / RNAウイルス / IRES / 翻訳機構 / レポーターシステム / CHV1 |
研究実績の概要 |
真核生物のIRES(リボゾーム内部進入部位)を介した翻訳機構においては、mRNAのキャップ構造非依存的に、RNAの高次構造によって翻訳開始複合体が取り込まれる。IRESは多くの動物ウイルスで普遍的に利用されており、その分子機構も精力的に研究されているが、植物や菌類のウイルスにおけるIRESの知見は限定的である。この様な背景のもと、本研究では、菌類RNAウイルスから新たに見出されたIRES含有RNA配列の構造を逆遺伝学的解析により理解し、既知IRESとの異同を明らかにすると共に、菌類におけるウイルスRNA-宿主タンパク質複合体の形成機構解明に向けた基盤を築くことを目的とする。 本研究の遂行にあたり、初年度はレポーター実験系(デュアルルシフェラーゼ実験系;DL)の確立と一部のIRES変異体の解析を進めた。ここで用いるコドン最適化ルシフェラーゼ遺伝子は、菌類ウイルスのモデル宿主生物として用いたクリ胴枯病菌で非常に強く発現する。性能を注意深く比較して購入した機材(ルミノメーター)は、シグナルの強弱に左右されることなく再現性の高い結果を示して重宝している。2つのルシフェラーゼ遺伝子間に挟み込んだCryphonectria hypovirus 1(CHV1)の5’非翻訳領域(5-UTR;約500塩基)とそれに続く72塩基のコード領域は、高いIRES活性を示した。これに対し、複数構築したIRESの部分欠失変異クローンは、いずれもDLにおいてIRES活性の低下を示し、特にコード領域72塩基を欠失した変異体は殆ど活性を失った。この結果を受けて、次年度には、IRES活性の著しく低下した領域のRNA構造を詳細に解析し、ウイルスの増殖や生存におけるIRESの役割を明らかにする。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、前半期に購入機材選定からDL実験系の確立を行い、後半期にかけてIRES変異体の作製とこれを用いたDL試験(IRES活性検定)を複数回行なった。予定通りに、名古屋大学においてクリ胴枯病菌を用いたDL実験系を再確立した後、高額な使用試薬(基質等)量の検討を行い、消費を半分に抑えるプロトコルを作成した。IRES変異体も滞りなく作製することができ、それを用いたDL試験も再現性良くデータを得られている。
|
今後の研究の推進方策 |
比較検討のうえ購入した機材によるデュアルルシフェラーゼ検出系は、想定よりも使い勝手が良い。この実験系を用いて、当初計画通りにCHV1-IRESの詳細な機能構造解析を粛々と進める。この結果を受けて、IRES変異CHV1クローンを作製し、接種試験によってウイルス増殖へのIRESの貢献を明らかにする。また、形質転換法で行なうDLシステムの擬似陽性(擬似プロモーター活性)の可能性を排除するため、試験管内転写RNAを用いた一過性DL実験を行なう。当初計画には入れていないが、プロモーターを除いたDLクローンによる確認実験も検討課題に加えて研究成果を取り纏め、論文化する。
|