真核生物のIRES(リボゾーム内部進入部位)を介した翻訳では、mRNAのキャップ構造非依存的にRNA の高次構造によって翻訳開始複合体をリクルートして翻訳を開始させる。IRESは多くの動物ウイルスで普遍的に利用され、その分子機構も精力的に研究されているが、植物・菌類ウイルスのIRES に関する知見は限定的であった。本研究では、菌類RNAウイルスに備わる新規IRESを初めてRNA高次構造を明らかにすることを目的として、ウイルスRNA-宿主タンパク質複合体(RNP)の形成機構解明に向けた研究基盤を築くために実施した。 前年度、デュアルルシフェラーゼ(DL)レポーターアッセイ系を利用して、菌類ウイルスの代表格であるハイポウイルス(CHV1)が、一本鎖RNAゲノムの5'末端非翻訳領域と一部の翻訳領域にIRES活性を持つことを確認し、特にコード領域近辺の配列が重要であることを明らかにした。本年度は、このうち翻訳領域を含む領域に翻訳開始活性に大きく貢献するRNA構造があることを変異解析により証明した。これらについて、ステムループ構造、あるいはシュードノット構造を維持したRNA配列、およびこれらの構造を損ねたRNA配列を合成し、IRES活性への影響を精査した。その結果、IRESの翻訳開始機能に予想されるRNA高次構造が重要であることが判明し、コアIRES配列が決定できた。また、一部の非翻訳領域は欠失変異することで、IRESの活性が上昇し、翻訳のブレーキを担う構造が存在することも明らかとなった。さらに、CHV1のIRES活性が、CHV1配列内の内部プロモーター等による疑似シグナルではないことを、プロモーター除去コンストラクトを用いた方法で確認した。現在、これらの変異をCHV1ゲノムに導入し、ウイルスの感染や複製にどのように影響するか調査している。
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