EBVが発癌に関与するとされる非B細胞性腫瘍の大部分がII型潜伏感染様式をとるのに対して、胃癌組織ではI型潜伏感染を呈する。I型潜伏感染とII型潜伏感染で発現するウイルス遺伝子の違いは、I型ではviral oncoproteinであるLMP1が発現していないことである。LMP1は感染細胞の細胞膜表面上に発現する膜タンパク質で、ERK、JNK、p38、NF-κB経路を恒常的に活性化し、細胞増殖を増強し、B細胞ではEBVによる発癌に強く関与することが知られている。 本研究では、まずLMP1を恒常的に発現する胃癌細胞株AGS細胞の樹立を行った。樹立したAGS-LMP1細胞とその親株であるAGS細胞を用い、LMP1発現細胞と非発現細胞との相互作用を解析し、①LMP1発現細胞単独での増殖は、非発現細胞よりも亢進している。②LMP1発現細胞と非発現細胞を1:50で混合すると、10継代後にはLMP1発現細胞の比率が低下する。③LMP1発現細胞と非発現細胞を共培養した時、LMP1発現細胞がアポトーシスすることは観察されない。という結果を得た。LMP1の発現は細胞の増殖を亢進させるため、共培養したときにLMP1発現細胞の割合は増えるはずであるが、逆にLMP1発現細胞の割合が減っていたという結果は、LMP1発現細胞と非発現細胞の間に何らかの相互作用が生じ、LMP1発現細胞の増殖優位性が阻害されたと考えられた。 今後は、どのような相互作用によりLMP1発現細胞の増殖優位性が抑制されているのかを明らかにし、胃癌組織でEBV感染細胞がLMP1の発現がないI型潜伏感染状態となる機構の解明に貢献したい。
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