本研究の目的は、先天性魚鱗癬の包括的病態解明を目指し、新規治療法開発に直結する基礎的データを得ることである。平成27年度の計画は、先天性魚鱗癬の患者と家族のDNAと皮膚組織を用いる研究であった。研究計画に基づいて、既存の病因遺伝子変異のない先天性魚鱗癬の25症例と、非罹患血縁者の中で、表現型がはっきりしている症例、劣性遺伝が推測しやすい家系、血縁者のDNAを多く収集できた家系を10家系選び、患者の末梢血より抽出したgDNAを用いて、全エクソームシークエンス法を行った。全エクソームシークエンス解析には、Illumina社のHiseq2000とHiseq2500を使用した。その結果、10症例の中で、サンガーシークエンス法では特定できなかった、既存の原因遺伝子の変異を持つ家系が数家系あった。以前に、先天性表皮水疱症においても、従来のサンガーシークエンス法より、全エクソームシークエンス法を用いた方が、遺伝子変異の同定率が上昇することを報告している。今回得られたデータは、先天性魚鱗癬においても、全エクソームシークエンス法の使用で、遺伝子変異の同定率が上がることが示唆された。 既存の遺伝子変異を持つ家系の中からABHD5遺伝子変異の症例を報告した。ABHD5遺伝子は、魚鱗癬症候群の一つに分類される、Dorfman-Chanarin症候群(DCS)の原因遺伝子として知られている。DCSは、中性脂肪代謝異常症であり、トリアシルグリセロールがさまざまな細胞の細胞質内に蓄積し、脂肪滴を形成する。魚鱗癬様紅皮症の他に、肝障害を始めとした他臓器症状を合併することが特徴である。本症例でも、過去に一過性の肝機能異常を呈したエピソードがあったが、無治療で正常化したため、その後の検査は施行されていなかった。本症例のように、他臓器障害が非常にmildで魚鱗癬の症状のみを呈する患者がいることが明らかになった。
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