研究実績の概要 |
本年度は高複屈折性材料への応用を指向し、π共役系構造をモチーフとした。まず、汎用的なπ共役系液晶分子あるジフェニルアセチレン(トラン系液晶)のアルキルチオ誘導体において、液晶性を発現するための分子設計を確立することを目指した。片末端をチオヘキシル基に固定し、もう一方のアルキル基の炭素数を変化させた6S-DPA-m(m =1-8)の合成を行い、その相転移挙動を評価した。その結果、比較的長いアルキル鎖(m=6-8)の誘導体が室温付近で層構造を有するスメクチック(Sm)相を示すことがわかった。次に、片末端をチオメチル基に固定し、もう一方のアルキル基の炭素数を変化させた1S-DPA-m(m=1-8)の合成を行い、その相転移挙動を評価した。その結果、m=5-8の誘導体は光学材料用途に重要な流動性を有するN相を室温付近にて示すことがわかった。最後に、片末端をヘキシル基に固定し、アルキルチオ基の炭素数を変化させたnS-DPA-6を合成し、それらの相転移挙動を評価したところ、n=1,2ではN相、n=2-4,6ではSm相をいずれも室温付近にて示すことがわかった。上述した結果より、SR基が短いとN相、長くなるとSm相を形成することが明らかとなった。1S-DPA-6のアルコキシ基誘導体である1O-DPA-6の合成を行い、両者のN相におけるΔnを測定した結果、1S-DPA-6はOR誘導体よりも大きなΔnを有することが明らかとなり、新しい高複屈折性室温液晶材料としての可能性を見出すことができた。さらには、コレステリック液晶材料への展開を目指した分子設計として、π共役系の大きなビストラン系骨格の中心のベンゼン環にフッ素を導入した分子においてもネマチック液晶付与に成功し、液晶性挙動や光学特性の評価を行った。アルキル基やアルコキシ基誘導体と比較し、屈折率および複屈折に大きな温度依存性を有していることが明らかとなった。
|