本研究課題において当初目的としていた、異なる患者から得られた癌関連線維芽細胞が異なる細胞表面蛋白を発現しているということをStro-1、CD117、CD105のFACS抗体を用いた実験において検証することができた。さらに前立腺癌上皮細胞の一つである22RV1とそれぞれの癌関連線維芽細胞を混合移植した腫瘍形成試験によって、上記細胞表面マーカーの一つであるCD105(TGFβの補受容体として存在しTGFβシグナル経路をmodulationする働きを担う)の中和交代によってマウスを処理する(尾静脈投与)ことで腫瘍の縮小が観察された。さらにこの現象を応用し、22RV1と癌関連線維芽細胞を混合移植した腫瘍形成試験にてマウスを抗アンドロゲン剤(Enzalutamid)によって処理した状態では22RV1は去勢抵抗性の挙動を示し腫瘍はさらに増大するが、その増大もCD105の中和抗体にて抑制することが観察された。同様の系をin vitroのMTTアッセイを用いて再現することが可能であった。(2016年 America Urological Association、米国、サンディエゴ、2016年日本泌尿器科学会にてポスター発表行った。)さらに上皮細胞での上記細胞表面マーカーの発現を解析したが、上皮細胞での検出は認められなかった。このことからも上記マーカーは特に線維芽細胞にて発現している可能性があり、その発現割合、組成を厳密に調べることで、悪性度の高い(上皮細胞からなる癌細胞の増殖を促進する、もしくは浸潤能を高める)線維芽細胞、またはそれらとは異なるふるまいをする線維芽細胞の区別が可能となり、線維芽細胞の細胞表面マーカーを操作することができれば、線維芽細胞をターゲットとした癌細胞(上皮細胞)のコントロールが可能になる可能性を示唆することができた。
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