本研究の目的は、キリスト教受容を経験した東南アジア大陸部山地のマイノリティを事例に、聖書の翻訳や伝道における現地語の強調、教会の言葉遣いとそれによるローカル社会の再編過程について、人類学的に調査、考察することである。中でも聖書の翻訳によって起こるずれや形成される新しい言説、解釈の問題、正書法の確立などに着目した。2年目で最終年度でもある本年度は、タイとミャンマーへの渡航調査の他、学会での発表を行った。 タイとミャンマーにおける渡航調査では、ミャンマーはヤンゴンのカレン・バプテスト会議と神学校でカレン語聖書の翻訳に関するカレン語文献を収集し、あわせて教会での聞き取りを行った。タイでは、チェンマイのロクサ聖書学校でカレンの神学教育で用いられる教会の言葉についての現地調査を行った他、宣教拠点となったカレン村落でキリスト教の語彙が日常生活の中でどのように用いられているのか、信徒が非クリスチャンの村落で行う宣教活動の際に用いる言葉や実践はどのようなものなのか、に着目してフィールド調査も行った。さらに1950年代以降の米人バプテスト派宣教師らの北タイでの宣教活動に関する月刊誌Thailand Tatlerや関連資料をパヤップ大学アーカイブで収集した。 研究成果は、「宗教と社会」学会、東南アジア学会関西例会の2箇所で発表し、さらに現在これを投稿論文として執筆中である。論文では、キリスト教の受容が先行研究で指摘されてきた民族アイデンティティの強化や近代的主体的個人の形成とは異なる方法でローカル社会の日常生活を再編する可能性について論じる予定である。
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