本研究は、従来のエネルギー概念史が歴史的に空白としてきたルネサンス期から古典主義時代までの自然学の分野で、エネルギーの語が使用されていたことに着眼し、この語の用法とその変容過程を、当時の自然哲学の形成と連関させることで、概念史自体の書き換えを最終目標に据えている。これを達成すべく、以下2点の主題をテクスト分析を通して考察し、成果を論文にまとめることを目指した。 1. 18世紀イギリスにおいて、神のはたらきによって自然界の物質に能動原理が与えられているとみなす自然神学が興隆した。この思想が世紀後半のフランスに間接的に影響を与え、精神と物質をつなぐ回路としての唯物論が形成されていったと仮定し、その裏づけを探究する。 2. 18世紀後半から19世紀初期にかけて隆盛したモンペリエ医学派の生気論における活力の語の用法変化から浮かび上がる新しい生命認識と、同時代の他のジャンルのテクストに見られる活力の語を比較して、両者の連動性があるか考察する。 1. については、医学が自然神学と協調し、能動原理を意味するエネルギーの語が使うようになっていた過程を見る上で、グリッソン『活力的物質の本性論』の医学論が非常に重要であることを突きとめた。フランスとの比較を考慮に入れつつ、現在この論点をテーマにした論文を作成中である。 2. については、ジャコバン派の政治演説において活力の語が合理と非合理の間で意味変容していく過程を明らかにし、それが、合理では説明がつかない根源的な活力が自己の生命を構成しているという世紀論学派のバルテズの〈生命原理〉概念との親近性を捉える試みを行った。その具体的な成果は、雑誌論文「〈自由〉と〈専制〉の奇妙な結合―恐怖政治期における〈活力energie〉の語意の変容を通して」、『慶応義塾大学日吉紀要フランス語フランス文学』64号、 2017年、pp. 1-22に結実した。
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