アフリカやアジアでつくられる手工芸品の消費は、「倫理的消費」の潮流や「手仕事」の評価など、新自由主義的な経済体制や大量生産・廃棄にもとづく消費文化に対するアンチテーゼという側面をもちながら促進されている。しかし、消費地での流通を担う企業(「消費地卸」とする)や消費者は、上記のような理念に影響されつつも、それぞれ異なる意図や論理をもってその循環に貢献していると考えられる。本研究の目的は、ガーナでつくられる「ボルガ・バスケット」の日本における流通と消費を事例に、消費地卸の商実践や消費者の購買実践を実証的にあきらかにし、ガーナ産手工芸品のグローバルな循環の動態を解明することである。 平成28年度は、1)消費者のブログ、口コミの分析、2)小売店と消費地卸に対する聞き取り調査を実施した。また、この研究の成果の一部を紀要論文として公表した。 本研究の主な成果は以下の3点である。第一に、ボルガ・バスケットの消費を促している要因を、他国産製品と比較しながら考察したことである。具体的には、このバスケットの消費は、独特の色柄や生産者の生計支援などのほか、「親しみやすさ」「丈夫さ」「使い勝手のよさ」といった「民藝」的要素に由来する魅力によって促されていたが、その魅力は価格の手ごろさと表裏一体であった。第二に、バスケットをグローバルに循環させるうえでの、地元の仲介業者(生産者からの集荷を担うアクター)と消費地卸の「顔の見える関係」の重要性を実証的にあきらかにしたことである。第三の成果は、先行研究で「資本主義的な経済関係を巧みに覆い隠している」と批判されてきた消費地企業の実践を、「わがままな」消費者と生産者をつなぐための苦肉の実践として再考した点である。 これらを総合して、本研究は手工芸品のグローバルな循環の動態を、異なる意図や論理をもつアクターの微細な実践の総体として分析する新たな視点を提示した。
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