本プロジェクトの目的は、東南アジア島嶼部におけるリーダーシップの正統性が系譜や歴史伝承にいかに関連付けされて人々によって説明されてきたのか、また、それらの説明がどのように現在的事象と結びついているのかを比較研究することである。研究対象の中心はボルネオ島である。現在のボルネオ島は、マレーシア、インドネシア、ブルネイの三国が領有しているが、歴史的には中華世界、ムラユ港市国家、スールー海域が交差する東南アジア海域世界の中心部ともいえる位置づけにある。 最終年度である平成28年度は、ボルネオ島インドネシア領東カリマンタン州のマハカム川流域の調査を実施し、マレーシア領との比較参照データおよび文献資料を収集した。ブルネイおよび周囲の島嶼地域に関する資料調査を継続的に行ってきた。これらの成果は、論文(「ボルネオ内陸部の交易拠点としてのロングハウス:19世紀末のサラワクにおける河川交易からの考察」『東南アジア研究』54(2):153-181、2017年1月、査読あり)、書評(Book Review: "Brunei: From the Age of Commerce to the 21st Century" by Marie-Syb ille de Vienne. In Southeast Asian Studies 6(1):30-32[印刷中])として公刊した。学会や研究会でも積極的に口頭発表を重ねてきた。本研究を通して東南アジア海域とオセアニア、南太平洋地域の島嶼世界へ比較の対象を広げることが有益との知見を得たため、今後の研究の発展的転回のために「アジア・太平洋海域世界縦横プロジェクト」を立ち上げ、ワークショップを開催し、幅広く意見交換と議論をした(2017年3月4日、京都大学)。
|