(1)「社会的相互行為アプローチ」の特徴の明確化 本研究の価値は,社会的相互行為アプローチを構成する個々の着眼点,すなわち,ある主体の(a)自己定義(b)実行可能な選択肢(c)他者との関係,を結びつけて,制度変化の源泉として上記(a)~(c)全体の再編成を捉えるアプローチを練り上げる点である。本年度は,この内容を明確に示したものを英語論文として完成させ,制度経済学の研究が特に盛んなフランスの雑誌に投稿した。 (2)ドイツ産別労組の組織化戦術の変化を捉える 2008年から2013年まで派遣労働者の待遇改善運動を展開したIGメタルについて,(a)自己定義,(b)実行可能な選択肢,(c)他者との関係,が連動して変化したこと,及び,それが社会運動の成功,つまり政府の方針転換に帰結したことを明らかにするために,ドイツに出張をして資料収集とインタビューを行った。その結果,IGメタルが「闘争的な社会運動」及び派遣労働者の「積極的組織化」を実施するきっかけになったのが,米独労組間の連携の中で,アメリカ産別労組が独自に練り上げてきた組織化戦略を学習したことであったことが分かった。この学習から実施までの過程を追いかけることによって,「実行可能な選択肢」が再定義されるまでの組織的内省を詳細に理解することができそうである。とりわけ,学習によって追加された選択肢が,組織における過去の成功体験と結びつけられることによって実行可能な選択肢として認められたという興味深い過程が明らかにできそうである。
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