日々の活動は、必要となる宣言的表象(物事についての知識)と手続き的表象(やり方についての知識)をうまく組み合わせることで成り立っている。しかし、従来の研究対象は主に、宣言的表象の認知コントロールについて注目したものであった。そこで本研究では、手続きセットのみのコントロールが必要となる、手続きセットスイッチングを考案し、手続き的表象のコントロールについての検討を行った。 本年度は、手続き的表象の系列的コントロールの検討を行うため、1つの判断課題に対して規則的にカテゴリー反応キーセットのみを入れ替えることを求める一連の認知実験を実施した。刺激の呈示間隔を操作することで、刺激呈示前に内的手続き的表象の変更可能かどうかを検討した結果、判断課題がある参照点を基準とした数字判断課題(例、5より大きいか小さいか)では、刺激呈示間隔の長さに伴い、反応セットの切り替えに伴う反応時間の遅延は減少し、内的に手続き的表象の変更ができることが示された。一方、カテゴリー分類を求める課題(例、奇数偶数判断)を用いた場合、刺激呈示間隔が長いときでも切り替えに伴う反応時間の遅延は短いときと違いはなく、内的な手続き的表象の変更は困難であることが示された。 このことから、手続き的表象の系列的コントロールが内的に可能かどうかは、それと結びつく判断課題、つまり宣言的表象のタイプにより異なることが示唆された。このため、手続き的表象のコントロール機構を理解するためには、宣言的表象の性質が手続き的表象のコントロールに与える影響について、今後さらに検討していく必要があるといえる。
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