本年度は当初の研究計画に基づいて,マイクロバブル近傍に発生するマランゴニ回転流の発生条件の調査と流路壁面形状がその流れに与える影響について調べた. 本研究では水中のマイクロバブルの表面に温度勾配を発生し,これによって生まれる表面張力勾配によってマランゴニ対流と呼ばれる流れを発生させている.発生する対流の特性を明らかにするため,水を封入するセルの厚みを系統的に変化させた.その結果,マランゴニ回転流を発生させてマイクロ粒子を捕捉するためには最適なセルの厚みがあることがわかった.一方でバブルの大きさもマランゴニ回転流の強さ等に影響するが,純水製造機で処理した水中でその大きさを一定に保つことが難しいことがわかった.これは水中に溶けている気体が加熱されているバブルの中に析出してくるためである.そこで,水を脱気することで水に溶けている気体を取り除いてから,同様の実験を行なった.その結果,直径10 μm程度の非常に小さい水蒸気マイクロバブルを生成し,さらにそのバブル周辺に1 m/s を超える急激なマランゴニ対流を発生できることを発見した.このバブルの直径は加熱のために照射するレーザー光の強度によって制御できるため,流路底面のナノ構造が対流に与える影響を調べるのに適している.さらに,発生する対流はマイクロ流体撹拌技術などへの応用も期待できる. 次に,流路壁面形状が対流に与える影響を明らかにするため,セルの底面にナノ構造を持つ薄膜を作製し,その上でマランゴニ対流を発生する実験を行なった.その結果,ナノ構造中の熱の移動が対流に大きな影響を与えることがわかった.本研究で流路底面はマイクロバブルの気液界面に熱を伝える役割を持っている.ナノ構造がその熱の伝わる向きを制御し,対流の強さを決定する.本研究成果はナノメートルスケールの熱輸送に関する新たな知見を与える.
|