研究課題/領域番号 |
15H06314
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
石本 健太 京都大学, 白眉センター, 特定助教 (00741141)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | 流体力学 / 低レイノルズ数流れ |
研究実績の概要 |
波状運動によって遊泳を行う生物の流体力学的なメカニズムを探ることを目的として研究を行った。まず、低レイノルズ数流れに従う微生物の遊泳における波状運動として、精子などに見られる鞭毛遊泳を考えた。特に、精子の中にはバクテリア鞭毛のように螺旋状の波を使って遊泳するものもあり、微生物以外にも見られる平面波状運動と螺旋波状運動の違いを流体力学的な遊泳効率から調べることにした。そのために、鞭毛を1次元的な物体として、鞭毛波形を少数のパラメータによる関数で記述したのち、遺伝的アルゴリズムを用いた非線形最適化法により、最高の遊泳効率を実現する遊泳を数値的に求めた。精子やバクテリアを想定し、頭部の大きさを変化させて最適化計算を行った結果、頭部が小さい場合には平面波状運動が最適になり、頭部が大きい場合には螺旋波状運動が最適となった。その中間である、楕円螺旋波状運動が最適解になる領域は存在しなかった。これは、多くの精子で平面波あるいはそれに近しい波状運動をしていること、バクテリア鞭毛が螺旋波によって遊泳していることと定性的に矛盾しておらず、微生物の波状運動は流体力学的遊泳効率にも戦略的に有利な遊泳形態であることがわかった。しかし、実際には楕円螺旋波状運動によって遊泳する精子も存在、流体力学的な遊泳効率で全てが理解できるわけではない。その原因としては、鞭毛の9+2構造と呼ばれる内部構造が存在していることが考えられる。この結果は、Journal of Theoretical Biology誌に論文として発表し、国内外の3つの会議でも発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、低レイノルズ数のストークス流れにおける波状運動に関して流体力学的な遊泳効率から一定の理解が得られた。特に、最適化問題の評価関数が多峰的であることがわかったため、最適化計算の工夫が必要であった。遺伝的アルゴリズムによってこの課題を克服できたが、同時に最適化アルゴリズム自体が鞭毛運動の進化の数理モデルとなっているため、得られた数値計算結果から進化の過程を考察することが可能になり、新規性の高い研究になったと言える。一方で、鞭毛を弾性体とした場合の数値計算においては、数値的な不安定性が大きく信頼性のある結果が得られなかった。また、慣性を無視しないナビエ・ストークス方程式による数値解析コードの開発についても、構造体の変化を考慮しない場合でも計算時間がかかり、生物の運動を境界条件として考慮した場合のコードの開発には計算時間の削減などの工夫が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
弾性体との連成問題が想定以上に数値的に不安定であることから、当初の研究計画で予定していたナビエ・ストークス方程式の流体構造連成問題の数値計算の方針を変更する必要が出てきた。また、ナビエ・ストークス方程式の流体計算自体もなんらかの工夫が必要であると考えられる。次年度は、これらの改善を行っていく予定である。また、このように流体メカニズムの一般論で打開策が得られない場合を想定して、鞭毛運動の変化と機能について生物系の現象を探索し、その現象を集中的に探索することで流体力学メカニズムの理解につながるのではないかと考えている。想定している生物現象としては、(1)異なる粘度における鞭毛波形の変化と遊泳効率の変化、(2)超活性化と呼ばれる哺乳類精子に見られる鞭毛波形の変化と力学的な機能について、である。
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