研究実績の概要 |
本研究では、フラグメント分子軌道法(FMO)法と密度汎関数強束縛(DFTB)法を組み合わせた、FMO-DFTB法と呼ばれる手法を用いる。この手法は非常に高速な計算手法であることがわかっているが、現状では信頼できる分子動力学シミュレーションを行うことができない点と、系によっては計算がうまくいかないという問題点がある。これらの問題は前年度にpolarizable continuum model (PCM)法を呼ばれる、溶媒効果を取り入れるためによく用いられる手法をFMO-DFTB法と組み合わせ、FMO-DFTB/PCM法を導出・実装することで解決し、誌上発表を行った。 今年度は、研究実施計画の通り、高次の多体効果を取り入れる手法の開発を行った。従来のFMO-DFTB法は、二つのフラグメント間の相互作用までを取り入れたFMO2-DFTBと呼ばれる計算レベルであったが、三つのフラグメント間の相互作用までを取り入れたFMO3-DFTBを可能にし、精度が向上することを確認した。また、分子動力学シミュレーションを行い、ナトリウムカチオン周りの水分子の数を理論的に予測し、他の計算手法で得られる値と良い一致を示すことがわかり、有用な手法であることを示すことができた。 また、FMO-DFTB法を用いて解析的二次微分の計算を可能にした。これにより、10,000原子程度の系の赤外分光スペクトルや調和振動子近似を用いた場合のエントロピー項を、短時間で計算することが可能になった。これらの理論開発により、今後のFMO-DFTB法を用いた応用計算に向けた準備が整ってきていると言える。
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