複合材料における繊維-樹脂間の微視的なはく離は,繊維方向に対して平行なき裂を生じる層内の破壊プロセスのうち,最も初期の段階に生じることが知られており,これを検出することにより早期段階での非破壊評価の実現が期待できる.しかし,超音波の散乱・減衰特性といったパラメータを評価する従来の非破壊評価法では,繊維-樹脂界面の健全性評価は困難であった.本研究の目的は,繊維-樹脂間のはく離が非線形超音波伝搬挙動に与える影響を明らかにすることにある.本課題の完成により,複合材料の革新的な非破壊評価法の実現が期待できる. 平成27年度は,微視的な繊維-樹脂間の力学モデルを構築するために,以下の二項目について主に検討を行った. 第一に,繊維-樹脂間のはく離を線形ではない力学特性を有する新たなモデル(非線形スプリングモデル)によりモデル化し,複合材料中の超音波伝搬挙動を数値的に解析した.本解析プログラムの結果は,既往の理論的な解析結果と一致し,その妥当性が確認された.本プログラムを用いて,複合材料中の高調波発生挙動を検討した.なお,簡単のため,母材中に繊維が1本のみ存在する複合材料に対し,繊維直角方向に縦波超音波を入射した場合を考えた.本解析の結果,高調波発生特性から繊維-樹脂間のはく離の程度を定量的に評価可能であることを示した. 第二に,航空機等に用いられる炭素繊維複合材料に対して負荷を与えた際の力学的な非線形特性の測定を行った.三点曲げによる負荷を与える予定であったが,超音波による評価がより行いやすい単純な引張試験により複合材料に負荷を与えた.負荷により繊維方向に対して平行なき裂を生じる層内破壊を生じた試験片と健全な試験片を比較したところ,試験片の非線形パラメータが負荷により30%程度増大していた.これは,複合材料の損傷の程度を非線形パラメータによって評価可能であることが示唆される結果である.
|