本研究においては、ゼニゴケ接合子において確立される細胞極性について、その性質、意義、極性形成に関わる因子の解明により複合的な理解を目指した。本年度は主に極性形成に関わる因子について、遺伝学的な解析を用いて候補の探索を行った。まず、受精前後の造卵器を用いたトランスクリプトーム解析において、受精後に有意に発現が上昇し、造卵器特異的な発現が認められた遺伝子に対して、細胞内外のシグナル伝達に関わると考えられる遺伝子を32遺伝子選抜した。これらの遺伝子を標的としてCRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集を行い、雌雄のゲノム編集株を作成した。現在はこのうち12遺伝子について、雌雄それぞれで目的の遺伝子が破壊された系統が得られている。そのうち7遺伝子の破壊株については、雌雄の破壊株を掛合わせて形成された胚の発生過程の観察も行った。このうち1遺伝子の破壊株については、造卵器の形態に異常が見られ、受精処理後も正常な胚発生が開始されないことがわかった。新興モデル植物であるゼニゴケにおいては、胚発生が異常になる変異体とその原因遺伝子はほとんど報告されておらず、今回見つかった遺伝子が今後の解析の足がかりになると考えられる。また、以上の結果より、本研究で採用したストラテジーによって、初期胚発生に関わる因子が同定できることも示された。今後は、未完了の候補遺伝子破壊株の作出、およびその表現型解析を行うことで、胚発生に関わる重要な因子の更なる発見が期待される。
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