①昨年度作成したDclk1-creERT2;Rosa26-Tomatoマウスを用いて、生理的条件および膵炎下でのDclk1陽性細胞の系譜解析を行ったところ、Dclk1陽性細胞は膵においてほとんど子孫細胞を供給せず、正常組織幹細胞ではなかった。 ②昨年度作成したDclk1-creERT2;KrasLSL-G12D、Dclk1-creERT2;KrasLSL-G12D;Trp53flox/floxマウスを用いて、Dclk1陽性細胞からの前癌病変PanIN・膵癌の発生を解析し、生理的条件で存在するDclk1陽性細胞からはPanINも膵癌も発生しなかった。しかし、膵炎で見られるacinar-to-ductal metaplasia(ADM)に出現するDclk1陽性細胞からは、PanIN、膵癌いずれも形成され、ADMにおけるDclk1陽性細胞がPanIN・膵癌の起源であることがわかった。 ③昨年度作成したDclk1-creERT2;Pdx1-FLP;KrasFSF-G12D;Rosa26-mTmGまたはDclk1-creERT2;Pdx1-FLP;KrasFSF-G12D;Rosa26-mTmG;Trp53frt/frtマウスをもちいて、形成されたPanIN・膵癌の中でのDclk1陽性細胞の系譜解析を行った。PanIN・膵癌においてDclk1陽性細胞は子孫の腫瘍細胞を供給しており、Dclk1陽性細胞はPanIN・膵癌の幹細胞であることが分かった。 ④膵癌の起源細胞であるADM中のDclk1陽性細胞の遺伝子発現プロファイルを解析したところ、Kras変異が導入されていない段階で、すでにKrasの発現が上昇していた。ADMにさらにKras変異が加わることで、Kras活性が腫瘍発生の閾値を超えることが示唆された。 以上の結果より、ADM中のDclk1陽性細胞は膵癌の起源細胞であり、またDclk1は膵癌特異的幹細胞マーカーであることが示された。
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