複数同時課題の遂行による認知資源の剥奪により,そのパフォーマンス低下が生じることは自明であり,日常場面においても「ながらスマホ」といった複数同時課題の遂行による弊害が社会的な問題となっている。しかしながら,認知資源容量や認知スタイルには個人差があり,複数同時課題遂行によって生じる問題は個人によって異なることが考えられる。また,認知資源容量の剥奪によって,他者への配慮,社会的規範の遵守などの社会性情報処理もが影響される可能性も示唆されるが,これらの問題についてはこれまでほとんど検討されてきていない。そこで本研究では,認知活動遂行中に複数同時課題遂行によって認知資源が剥奪された際に生じる,認知的情報処理,および社会性情報処理の変化の個人差を調べることを目的とした。 今年度は,認知資源容量の多い人と少ない人では,複数同時課題遂行時に認知資源剥奪によって受ける影響にどのような差異が生じるのか,統制された実験室環境での実験,およびドライビングシミュレータを用いて運転場面を想定した実験によって検討した。その結果,認知資源容量が少ないとされている人たちの中に,複数同時課題遂行によってパフォーマンスが低下しない人が一定数存在することが明らかになった。また,認知資源容量剥奪によって,社会的スキルの高い人と低い人では認知資源剥奪によって受ける社会性情報処理に差異が生じるか検討した。さらに,複数の認知的情報処理を行いながら意思決定を行う場面として購買場面を想定し,製品の選択行動においても認知資源容量や認知スタイルの個人差が影響を及ぼすことを検証しその基礎的な知見を得るために,購買場面を想定した調査を行った。
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