環境汚染を改善する目的で用いられる浄化剤として、これまで種々の材料が提案されている。水酸アパタイトは、骨の無機成分として知られる高い骨親和性を持つ材料であり、陽陰イオン交換特性およびタンパク質吸着特性を示すことから浄化材としても期待される材料である。これらの特性は水酸アパタイトの構造や結晶形態によって制御できると考えられる。本研究では、汚染物質(有機物)の吸着特性に選択性を有する光触媒材料の開発を目的とし、水熱法により酸化チタンとの複合化および形態制御を試みた。尿素分解を用いた水熱合成法により、酸化チタンナノ粒子が表面に担持したスポンジ状および針状水酸アパタイトの複合体の合成に成功した。生成する水酸アパタイトの結晶形態は、尿素濃度によって変化する溶液pHにより制御できることを明らかにした。得られた複合体の光触媒活性をメチレンブルーを用いた退色試験により調べた結果、水酸アパタイトの結晶形態に関わらず複合体は紫外光照射下で退色反応を示すことが分かった。ただし、スポンジ状の試料と比較すると、針状結晶からなる水酸アパタイトの複合体の方がわずかに退色速度が早くなる傾向を示した。さらにメチレンブルー以外にも、ローダミンB、オレンジG、酸性フクシンといった塩基性および酸性色素を用いた退色試験も行った。この結果は、有機分子の吸着および分解作用において水酸アパタイトの結晶構造が影響している可能性を示しており、本研究により今後の光触媒特性に選択性を持つ浄化材料の開発研究を進める上で、合成条件および特性に関する有用な知見を得ることができた。
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