研究課題/領域番号 |
15H06350
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
新井 由美 大阪大学, 文学研究科, 助教 (40756722)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | 挿絵 / 小村雪岱 / 邦枝完二 / 新聞連載小説 / 東京美術学校 |
研究実績の概要 |
(1) 小村雪岱が挿絵を提供した小説の初出収集を行った。購入が可能な範囲のものは初出掲載誌を古書店で購入し、それが困難な場合は国立国会図書館所蔵の資料より当該箇所を複写しそれに替えることとした。入手できたものはいずれもスキャンしてデータ化を行い、紙媒体と共に保存した。(2) (1)で入手した小説の目録作成を行った。雪岱が挿絵を提供した小説の総数は明らかではなく、既存の目録類も不完全なものであるため、目録の作成・整備は必要不可欠な作業である。そのため、収集は未完でも挿絵作品を入手する毎に目録に追加してゆくという形をとった。 (3) 具体的な作品のテキスト読解を進めた。雪岱挿絵の代表作と目されることが多い邦枝完二の小説作品を中心とし、特に27年度の研究実施計画においてモデルケースとした「おせん」の詳細な読解を行い、作品構造や意義の解明に努めた。読解においては初出本文と単行本本文の異同についても注意した。(4) (3)の作品に付された挿絵の分析、および挿絵と本文との関連についての検討を行った。その過程で、雪岱は挿絵を作成する際に鈴木春信(1725~1770カ)の浮世絵を参考にしていること、挿絵の素材となった具体的な作品が複数存在することが判明した。また本文の内容に即した挿絵作成の工夫、初出時の挿絵と単行本収録の挿絵の違いについても検討した。(5) (3)(4)の具体的な成果については、平成28年3月に開催した「文学と美術研究会」において発表を行った。 (6) 雪岱の文学的素養を育んだ背景として、彼の出身校である東京美術学校(以下美校)における学生らの文学活動のあり方に関する調査に着手した。美校の機関誌『東京美術学校校友会月報』ならびに『校友会月報』の一部を東京芸術大学附属図書館にて閲覧し、美校学生の間に強い文学への関心が存在することを確認し、雪岱挿絵に関する研究の一助とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
「研究実績の概要」(1)に示した初出作品の収集と複写作業は、当初の予想以上に時間がかかることが判明した。雪岱挿絵が掲載されている媒体とその刊行時期については、複数の文献によってある程度確認できるが、それらの情報は不完全なものが多く、掲載年月日の特定に時間を要することが多い。たとえば、雪岱挿絵が付されたある小説作品の掲載箇所を入手しようとする場合、手がかりとなる情報が「『週刊朝日』昭和10年」としか記載されていないことが多く、昭和10年分刊行の当該雑誌すべてを閲覧し、その中から必要な資料を抜粋するという手順を踏む必要がある。また、複写が必要な箇所を特定できてからも、当該箇所に付随した関連記事が前後に掲載されていることがあるため、関連記事も見落とさないよう注意し資料に当たる必要がある。更に、従来の文献に記載がなかった作品が調査の過程で新たに見つかることもある。以上の事から、新聞雑誌の調査は判明している掲載時期に特定せず、それ以外の時期も広く目配りする必要があることが判った。 個々の作品と挿絵を検討する際も、研究対象は先行研究の蓄積が殆どない分野のものであり、問題点がその都度新たに掘り起こされるため、一作品当たりの読解にかなりの時間を要する。モデルケースとした「おせん」の場合、邦枝完二の小説本文と雪岱の挿絵の関連に限って検討するのみではなく、新たに調査すべき事項が少なくとも次の2点派生している。 ①雪岱挿絵における鈴木春信の影響。鈴木春信の作品に関して詳細な調査が必要となった。 ②邦枝完二と、その師永井荷風との関連。小説は荷風からの影響の上に成立したものと思われるため、荷風に関する文献にも目を通す必要が生じた。 以上のように、実際の作業の過程では、閲覧→複写→読解→検討→結論、といった流れを機械的に均一の手間や時間で行うことが困難であり、予想以上の時間を要することとなった。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に引き続き、様々な新聞雑誌等の媒体を調査し、雪岱が挿絵を提供した小説を入手して、そのデータ化および目録作成を行う。個々の具体的な作品の読解と挿絵の分析も並行して行う。その小説作者についても必要に応じて調査する。雪岱挿絵の成立背景として、東京美術学校校友会発行の「月報」調査も継続する。更に、雪岱と同時期に活躍したその他の挿絵画家の仕事にも目を配り、研究の次の段階への準備を行う。以上、申請時の研究計画の内容については大きな問題点はなく、変更の必要はないと考えるが、調査の過程では、既存の文献には記載がなかった小説作品と雪岱挿絵の存在が明らかになることもあったため、当時刊行された雑誌は特定の時期に限らずできる限り目を配ることが、新たに作業として追加される。 「研究実績の概要」「現在までの進捗状況」に示した通り、当初の研究計画で想定した以上の時間がかかるため、調査研究に要する時間の短縮化・効率化の方策を工夫してゆく必要がある。そのために、個々の資料閲覧の過程において、挿絵が掲載されている当該箇所が特定できたら、副次的に関連資料の収集をその都度行おうとするよりも、研究実績(2)に示した目録作成に係る作業を優先するよう努めてゆく。
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