研究課題/領域番号 |
15H06352
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
荘 千慧 大阪大学, 文学研究科, 招へい研究員 (50711123)
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研究期間 (年度) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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キーワード | 比較文学 / 比較文化 / 神智学 / ポストコロニアリズム |
研究実績の概要 |
27年度の繰越金を利用し、杉村楚人冠記念館(神奈川県我孫子市)にて、楚人冠の未公開手稿や日記の翻刻を行った。さらに、香港では、香港大学図書館及び公文書館にて、神智学協会が戦前の中国に行った活動の記録を調査した。杉村楚人冠記念館での調査成果は一部日本語論文「夏目漱石『門』・『行人』における宗教概念とその時代」に反映されたほか、今後の調査方向の手助けになる記録も発見した。 香港調査では、神智学協会香港支部の中国人参加者を確認することができた。今後はその調査結果を活用し、彼らのネットワークをより調べていく。 全体の調査結果により、早稲田大学で教鞭を執ったインド人学者H. P. シャーストリーは1916年-1918年の間にイギリス政府に日中の情報提供した一方、大川周明や黒龍会と交流していたことを把握した。彼が1918年4月に孫文の誘いに応じて上海に移住し、その一年後に中国の神智学支部の初代会長となった。その神智学支部の名誉会長は英国国籍の伍廷芳であり、伍もまた、1920年に孫文政権の外交総長を務めながら、アイルランド人神智学徒と香港で密に会い、連携を図った。類似性のあるバハーイー運動のネットワークと重なったことからも、彼らの運動には〈東〉対〈西〉という二重対立的な枠組みでは説明しきれない、複雑性及び多層構造を持っていたことがわかる。彼らのネットワークは帝国主義とポストコロニアリズムの臨界にあることは、本年度の調査結果により判明した。 その全貌の解明は、近代の列強と東アジア諸国の衝突史を政治・文化・思想の面から修正する可能性も期待できると思われるものの、まだ不明瞭な状態であるが、今後の課題にする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
杉村楚人冠記念館の関係者各位からご協力をいただき、貴重な文献資料を閲覧した。さらに、早稲田大学で教鞭を執ったインド人学者H. P. シャーストリーが日中の神智学運動のネットワークに重要な人物であることを判明した。シャーストリーのネットワークを調べるため、彼がロンドンで創立した霊性思想団体とも連絡が取れた。調査許可のために交渉が続き、残念ながら研究期間内にロンドンへの資料調査が叶えなかったが、2017年度では無事に調査許可をいただいた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の研究成果を踏まえ、今後より研究を推進する際、神智学の文献のさらなる調査が不可欠である。それらの文献を閲覧可能な国内外の研究機構をこれまでの調査を通して把握している。また、2015年のシドニー調査を通して神智学オーストラリア本部から信頼を得ることができ、遠隔地からの資料の複写依頼が可能となったため、効率的に調査が進められる。なお、これまでの研究成果を英語や中国語で発信し、神智学研究に関する実績をさらに作り、資料調査先の信頼を得る。このことにより更なる資料の依頼ができる。
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