本研究は計量社会学の立場から、子どもの命名をめぐる論争が生じる背景を明らかにする。理論面ではS. Liebersonのsocial taste論に依拠し、方法論の面ではJ. K. Skipperの主観的階級(階層)判断の研究を発展させる。従来手薄であった名前の社会学的研究を推進するだけでなく、広く流行現象と社会階層との関係を扱う研究一般にも寄与する。また、命名権や人名用漢字などの法と制度の今後を議論する上での有用な根拠を提示し、社会貢献を果たすことができる。 具体的な研究は二つの課題からなる。(1)数量的な手法を用いて新生児の命名ランキングを分析し、日本社会の命名の実状と動態を把握する。さらに、より発展的な分析手法を用いて、ランキングの変動の要因を細かく探る。(2)研究代表者自身による過去(2012年)の調査・分析を異なる条件下で追検証する。階層の高低に結びつく(と他者が主観的に判断している)名前の特徴、および階層判断に対する判断者自身の社会的属性の影響を網羅的に解明する。 今年度の研究成果のうち、(1)については、ランキングの短的変動と長期変動の切り分けを行った。また。内的要因の影響を統制してもなお、外的要因の効果が残ることが分かった。命名ランキングの変動のうち、内的要因による変動の大きさは100年間を通じて比較的安定しており、男女差は見いだせなかった。従って、時期によって突発的に生じる変動、外的要因による部分であり、ここに男性名と女性名の差異も存在することが分かった。 (2)については、インターネット調査を2016年2月に実施した。内容の異なる6グループの項目を、それぞれ500人の調査対象者、合計3000サンプルに対して提示した。得られたデータは現在分析中であり、その結果は2016年から2017年にかけて発表される予定となっている。
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