神経障害性疼痛は、未だ有効な治療法が確立されていない難治性疼痛である。疼痛の原因が、損傷早期に起こる中枢神経のつなぎ換えである可能性が報告されたが、その詳細なメカニズムは解明されていない。脳内の恒常維持を司るミクログリアが、発達期にシナプス形成と可塑性に関与していることから、同様の機構が、障害を受けた後の神経回路の再編成においても働いている可能性に着目、その詳細な分子機構と制御様式を追求することにより、中枢性疼痛の原因となる分子実体の解明を試みた。 本研究では、脳卒中発症後、特に視床における出血の後に慢性的な痛みを引き起こす視床痛のマウスモデルを確立するところから始めた。視床腹側基底核にコラゲナーゼを局所注入し出血を引き起こした。この視床出血モデルにおいて、数ヶ月にわたり痛みが発症する疼痛モデルを確立することができた。 この視床出血モデルマウスにおいてミクログリアの状態を観察したところ、出血3日後には出血部位の視床ではなく、い、大脳皮質の感覚野においてミクログリアとアストロサイトの強い活性化が観察された。さらにミクログリアを脳内から除去する操作を行うと、疼痛発症を防ぐことに成功した。さらに、ミクログリア除去のタイミングと方法を検討し、より臨床に即した疼痛発症抑制機構の開発を目指す。また、出血によって損傷を受けた血管の修復と血管の新生も、ミクログリア由来の因子に制御されていることを示唆する結果を得ることができた。今後さらにスクリーニングを行い詳細な分子機構の解明を行う。
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