昨年度は、Lgr5のエクソン5領域に対する抗体の性能評価、既存の検体を用いた全長型Lgr5陽性細胞の臨床病理学的意義の検討と細胞株を用いたシグナル解析ならびに全長型Lgr5が細胞周期に与える影響の解析を行った。Lgr5のエクソン5領域に対する抗体の性能評価として、マウス腸管上皮のフローサイトメトリーではLgr5陽性の細胞集団を特定することができた。既存の検体を用いた全長型Lgr5陽性細胞の臨床病理学的意義の検討として、ヒト大腸癌切除検体のパラフィンブロックを用いて免疫染色を行い、ヒト臨床検体における全長型Lgr5の分布形式を確認し得た。さらに化学療法前後の臨床検体の免疫組織染色を行うことで比較した結果、化学療法によって全長型Lgr5陽性細胞の比率が有意に増加することを確認しえた。同時に同細胞集団は細胞増殖のマーカーであるKi-67と一致せず、全長型Lgr5陽性細胞は細胞周期が比較的遅い細胞集団であり、細胞周期が遅いことが化学療法への抵抗生を示すメカニズムの一つではないかと推察された。細胞株を用いたシグナル解析ならびに全長型Lgr5が細胞周期に与える影響の解析として、全長型Lgr5ならびに、そのスプライシングバリアント (Lgr5Δ5) の安定強制発現系をHEK293細胞ならびにHT-29細胞を用いて作成した後、in vitroで検討を行った。全長型Lgr5を強制発現させた細胞は細胞周期が比較的緩やかに回転し、その効果はWNT3aとR-spondin-1を添加することにより増強した。さらに、抗がん剤耐性を裏打ちするために、5-FUに暴露すると、全長型Lgr5を発現させた細胞は抗がん剤耐性を獲得していることが判明した。以上より全長型Lgr5陽性細胞がいわゆる“がん幹細胞”の性質を持つ細胞集団である可能性が示唆され、同事実をBritish Journal of Cancerにsubmitし、acceptされた。
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