研究実績の概要 |
本研究の目的は,疾走における加速能力を定量的に評価する手法を確立することである。これまで,疾走能力については,疾走中の最高速度を用いてその評価が行われてきた。一方,加速の仕方や加速能力については,Furusawa et al.(1927)をはじめとして,静止状態から最高速度に至るまでの疾走速度変化を数式化することで,定量的な評価が試みられている(Prendergast, 2001;Morin et al., 2006)。これらの理論式には共通して指数関数が用いられており,理論式によっては,指数関数の指数を特に時定数と呼称している。この時定数は加速の仕方や能力を表す可能性があると考えられているが(小林,1966),疾走速度変化との関係や人によって値がどの程度異なるのかなど,加速能力の評価に時定数の値を用いることが可能かどうかについては詳細に検討されていなかった。そこで本年度は,静止状態から最高速度に至るまでの疾走速度変化を測定し,本研究で用いる理論式および一連の評価手法に関する検討を行った。学生短距離選手に静止状態から最大努力での70m走を行わせ,静止状態から最高速度までの疾走速度変化を実測した。各試技における疾走速度の測定にはレーザー式速度測定器を用いた(100Hz)。測定により得られた時間―速度変化データから,時定数,最高速度,最高速度の到達時刻などを算出した。その結果,最高速度および時定数は個々人で異なっており,時定数の値と最高速度の関係によって,疾走中の速度変化も異なっていた。したがって,時定数の値と最高速度の関係をみることは,個々人の疾走速度変化の特徴を評価する際に有用な可能性があるものと考えられた。また,報告されている種々の理論式について,実測値との差異などからそれぞれの理論式の特性を検討し,本研究で用いる理論式および実測値から数式化する際の手順について整理した。
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