研究実績の概要 |
本研究では、「主観的幸福度」の指標を用いて、社会保障政策や震災被災者への支援政策が受給者の厚生及び経済状況に与える効果を実証的に検証する。通常、それぞれの政策から人々がどの程度の効用を得ているかは観察できないため、個々人の「主観的幸福度」を政策による効用の代理変数として用いる。また、個人の所得や就労状況、健康状態等の社会経済変数を含むパネルデータを使用し、因果関係の推定を行う。 具体的には、(1)介護保険制度や年金制度を中心とした社会保障政策が受給者の厚生に与える効果、(2)東日本大震災における被災者支援の評価を行う。 研究初年度は(1)の介護保険制度が家族介護者の精神的負担を軽減させているかという問題を、日本の中高齢者のパネルデータ「くらしと健康の調査(JSTAR)」とヨーロッパ17か国の中高齢者のパネルデータThe Survey of Health, Ageing and Retirement in Europe(SHARE)を用いて検証した。各国の制度と家族観の違いに注目して推定した結果、介護保険制度が所得制限なく利用できる国や家族よりも国が介護をするべきと考える家族観を持つ人の多い国では、介護による精神的負担が大きい一方で、介護保険制度が十分に制定されていない、ないしは、利用に制限がある場合、そのような影響は見られなかった。さらに、年金制度の変更が離婚の決定と離婚後の高齢女性の経済状況への影響に関する研究を開始した。関連文献のサーベイとJSTAR及びアメリカの中高齢者パネルデータThe Health and Retirement Study(HRS)のデータ整備を行った。(2)の研究に関しては、予備的研究を査読付き国際学術雑誌掲載を目指して改訂を行い、掲載されることが決まった。その後、個人の震災被害状況データのデータ整備と関連文献のサーベイを行った。
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